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「アストショッドの間では、代々陽神(ひのかみ)に選ばれた医者が長老を兼任するという掟があるらしいな」
「さすがハルトさんその通りっす!
そのオオババ様が丁度麓の街にいらっしゃるんです。急患があったらしくて。明日の正午には《背中》へ帰るって聞いたんっすけど……そうだ!」
アシャが膝を叩く。
「シュクル、おいらと一緒に麓街まで行かないか?」
「えっ?」
急な提案にシュクルだけでなく皆が驚いた。
「アンタねぇ、さっき世間は物騒だって話をしたばかりじゃない! 連れていくならアタシが――」
「言いたいことは解りますけど、シュクルは色んなものを見た方が良いんじゃないかな? 豹馬に乗ってちゃ見えないような、ゆ〜っくりした景色をさ。自分がどんな世界に住んでいるのか思い出していかないと、またこうやって大変なことになっちゃうかもしれないよ?」
「……ぼく、一緒に行きたい」
シュクルが口を開いた。
「アシャさんの言うとおりだよ。もっと色んなことを思い出さなきゃって、ずっと思ってた……ハルト言ってたよね? 『くだらない記録など存在しない』って。
忘れてたんだ。一番欲しい記憶に関係ないって思えるようなことでも、実は大切な記憶の一部なんだって。生きていくために必要な常識があるって。それに」
シュクルはベニアを見上げる。
「ベニアさんには早くロッソさんを助けてあげてほしい。ぼくよりもずっと苦しんでいると思うから」
「……アンタ敵に情けを掛ける余裕があるなら自分の心配したら? 襲われたらどうすんの。アシャは見た目こそイカツイけど強くはないわよ?」
「それは認めますけど、そもそも姐さんに強いと言わしめる人なんてこの世にいるんっすか?」
アシャは苦笑いする。
「大丈夫ですって! 子どもなんて沢山いるんですし、わざわざ“イカツイ”おいらのツレを狙うなんてこともしないでしょ? それに思うんっすけど、シュクルを狙ってくる奴ってアラギジルだけなんじゃないですか?」
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