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「当たり前だ。そんな怠惰な仕事は仕事と言わん。情報を得るためにはそれなりに行動せねばならんのだ。それも無限にある事象の中から、今必要なものを優先的かつ効率的に集めなければならない」
ハルトの説明に熱が入って来る。
「私が今優先的に集めているのはミスターとシュクルに関する情報だ。鶏事件に重きを置いてはいない。何故か? ミスターとの関連性の実証が無いからだ。
しかしロッソが執拗にこだわり続けることも気になる。故に新聞などから基本的な情報を得ることは必要だろう。分かったか?」
「分からんが分かったことにする!」
「ジャンさん適当っすね〜。つまり本命はミスターとシュクルの関係で、気になるあのコが鶏事件ってことっすよ。分かりますよぉ、二股って結構神経使うんっすよねぇ……」
「ほぉ」
「なに感心してんのよサイテーね!
アンタも黙ってないで何か言ってやんなさいよ!」
ベニアが真顔のハルトを指す。この堅物が色ボケた台詞に不快感を示さないというのは、気にくわない相手ながらもかなり心外だ。
ジャンも「お?」と心なしか面白がっている表情を見せている。
「ジャンに通訳がつくメリットの方が大きいからな」
「ダァーハッハッハッ!! そういうことかよ!
おおシュクル、起きたんか?」
ベッドから起き上がったシュクルが、ぺたぺたと歩いてくる。
ベニアの視線が刺々しい。おどおどと見上げるとツンとそっぽを向かれてしまった。
「具合はどうだ?」
「うん……だいぶ良くなったみたい」
「紅斑も引いたな」
「それは良かった!」
アシャがニカッと笑う。彼は大きな声を出すこともないし顔に皺も無かったが、あまりにも笑い方がジャンとそっくりなのでシュクルは安心してしまう。ジャンの若い頃もこんな風だったのだろうか?
「でも一度アストショッドのお医者様に診てもらわないとね。陽の毒って凄くしつこいんだ。少しでも毒が残っていれば、ある日突然爆発したように酷い熱を出す。ヒステリックな女の子みたい」
「アンタって子どもに対してもそういう例え方すんのね。っていうか、薬飲んだんだから大丈夫じゃなかったの?」
「薬は応急処置みたいなもんで、大丈夫かどうかっていうのはオオババ様じゃないと診断できないっすよ。
あ、オオババ様っていうのがアストショッドのお医者様のことね」
アシャがシュクルに言う。
「診てもらうったってシュクルはアストショッドじゃねぇんだから《背中》を登れねぇんだぞ?
まさかオオババ様が《背中》を降りて来ちょるんか?!」
「なによ。そんなに驚くことなの?」
「あたぼーよ! オオババ様っちゅーたら長老のことだぞ?」
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