4
***
「ミスターと記憶喪失の子どもかぁ」
シュクルに薬を飲ませた後、事情を聞いたアシャは人差し指を顎に当てて考えている。
「何か聞いたことねぇか?」
「そうよ。そこら中行ってんだから、ちょっとくらい聞いたことあるんじゃない?」
「おいらは《背中》とココとを往復するばかりですから行動範囲狭いっすよ? ジャンさん専用の運送屋なもんで。ミスターなんて人も初耳だし」
アシャは椅子の上であぐらをかく。
「それに子どもが誘拐されるとか別に珍しいことじゃないですよね? この街は領主様がしっかり治めていらっしゃるから良いけど、一歩外に出たら“何でもアリ”なんて街もありますし」
「確かにな」
ハルトが頷く。
「ならば鶏事件は知っているか?」
「ええ。昨晩ついに隣のピラミダリス領で被害が出ちゃったみたいですよ。ラワァーレ領との国境近くにあるクホルっていう小さな田舎町」
「昨晩? 何時頃だ?」
「まだ詳しくは分かってないみたいっすけど真夜中っぽいです。寝ていた住民が断末魔で跳び起きたって書いてありましたから――あっ、新聞あるんでドウゾ」
アシャはウェストバッグから新聞紙を取り出してハルトに渡す。真剣に記事を読み始めたハルトにジャンは首を傾げた。
「ん? ハルト、おめぇ記人なんだから、新聞なんて読まなくてもえぇんじゃないか?」
「何故」
「なぜって……なぜ?」
ハルトは溜め息をつく。
「お前は私が何もせずただ座っているだけで、世界中の情報を得ているように考えていたのか?」
「えっ違うのか?」
[*前へ][次へ#]
[戻る]