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「よぉ、アシャじゃねぇか!」
アシャと呼ばれた青年はニカッと笑って座席から荷台に移る。上半身とは対照的に、下半身はやけに賑やかな格好だった。三つのウェストバッグだけでは足りないのか、さらに巾着を下げたり、太ももの横やスネの前やら至るところにバッグを巻き付けている。
「ジャンさんそろそろ陽水(ひのみず)無くなって来てる頃でしょ? 注文来ないから心配して持って来たんすよ」
アシャは荷台に固定していた甕(かめ)の縄を解きながら言った。それがジャンの家の裏口に置いてあったのと同じものだと気付き、シュクルは驚く。なぜならその高さは、自分が立った状態ですっぽり入ってしまうくらいだったのに、アシャと並べて見ると、彼の腰辺りまでしかないのだ。おそらくアシャはジャンよりも背が高かった。
「陽水? いっけね、忘れてた!」
「しっかりして下さいよぉ……。ところで朝から皆さん揃って何してるんすか?」
アシャはジャンに背負われたシュクルやハルトを見て不思議そうな顔をする。
「ボウヤに陽が入っちゃったのよ」
「あっベニア姐さんじゃないっすか!」
アシャは窓の外に顔を出したベニアにニコニコと笑って手を振った。
「いやぁ〜相変わらずお美しい」
「呆れた。アンタまだそんなこと言って街中ほっつき歩いてんの?」
「姐さんだけっすよ。
で、薬は?」
ジャンがベニアを押し退けて顔を出す。
「無ぇ! 今から《背中》まで連れて行こうと思っちょるんだが」
「そりゃ運がいい。今持ってますよぉ」
「へっ?!」
アシャが一番大きなウェストバッグから小瓶を出した。
「どーも。マイナーな薬屋も始めました! 運送屋のアシャディヤシャンです」
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