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「ボウヤの熱は下がった?」
「いんや」
「どうやら“陽が入った”ようだ」
ハルトの言葉にベニアが嫌な顔をする。
「何でアンタが先に言うわけ? マナエンの方が絶対早く気付いてたのに!」
「マナエン様が? ならばやはり“陽が入った”のだろうな」
確信を得たハルトに、シュクルの目が説明を求めている。
「ヒトが生きていく上で必要不可欠な不思木がある。それがスンタンだ。スンタンの根から作られる薬を服用、あるいは皮膚に塗布したりしないで外に出ると“陽が入る”。陽が入るというのは、平たく言えば陽光が原因の熱病に侵されるということだ。
スンタンはアストショッドの故郷、ザハルアルバリー《開かれた背中》という山でしか育たない不思木だ。彼らの生活はスンタンを売ることで成り立っている」
「だが髄まで入っちまったら普通のやつじゃあ効かねぇぞ? 根じゃなくて葉で作った薬が必要だ。あれはここら辺じゃあ売ってねぇ、《背中》まで行かねぇと……」
「だからアタシが来たんでしょうが!」
ベニアがぷりぷり怒る。
「ったく相変わらず勘が悪いわね! アタシだって仕事詰まってんだから、早く用意して頂戴」
「喚くのなら外で待ってろ、やかましい」
「助けに来てやったのに何よその言い方!」
「貴様こそ何故そう怒らないと気が済まないのだ?」
「うるさいわね、アンタが怒らせるから悪いんでしょ?! ったくボウヤの次はロッソだし何でヤな奴ばっかり助けなきゃなんないのよ」
「ケンカする程なんちゃらってな!」
ジャンがせっせと荷作りをしながら笑い飛ばした。
「お前がロッソを助けるとはどういうことだ?」
「全くいい迷惑よ。使いに出した奴を待ってたら手遅れになるかもしれないからって、アタシがボスターニを迎えに行くことになったの」
「かの薬師はかなり人を選ぶ方だと聞いたが……マナエン様とはそれ程までに親交が深いのか」
「マナエンは“臭くない”からお気に入りなんだって。ったくあのオカ――」
「用意できたぞ!」
ジャンがシュクルを背負って立つ。
「早くしねぇと!」
「ジャン、急いでも慌てるなよ。シュクルにスンタンを飲ませたか? これ以上陽が入らないように予防しておかなければ」
「おおそうだった!」
「靴も履かせてないじゃない」
「靴? そういやぁ靴がねぇんだった!」
すっ、とハルトが靴を差し出してきた。
「昨日買っておいた。どのみち出歩くのに必要だと思ってな」
「おめぇは母親か?」
「母親ではない。記人だ」
「サイズあってんの?」
「自信はある。私の見立てによると――」
「ちわー」
聞き慣れない声がした。
そろって窓の外を見ると、大きな荷馬車に乗った上半身裸の青年がジャンに向かって手を上げていた。一目で分かる。褐色の肌に白の模様、アストショッドだ。
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