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翌日になってもシュクルの熱は下がらなかった。
夜通し額を冷やす布を換えていたジャンの傍でハルトは時間毎に熱を計り続け、体温計と睨めっこしては紙に点と線を書き込んでいた。ジャンにはただの落書きにしか見えないそれは、グラフというものらしい。
(全く、記人っちゅーのは頭ん中どーなっちょるんだ……?)
寝不足でぼうっとしていると、ハルトがグラフを見せてきた。
「陽が昇ってから徐々に上がってきている」
「今何度だ?」
「39度だ」
「オッチャンの平熱より低いくらいだな」
「平熱が高いアストショッドにとっては低いくらいの温度だが、我々ソルにとっては危険な温度だ」
「……ぼく、死んじゃうの?」
「でぇじょうぶだ。心配すんな!」
浅い呼吸を繰り返すシュクルにジャンが答える。
「あの薬が効かなかったということは、風邪ではないということ。そして症状は発熱と紅斑……」
ハルトはシュクルの顔や首に出ている赤いアザのようなものを見た後、服を捲って腹や腕を見る。
「それも衣類に隠れていた部分は比較的軽い。そこで私は考えたのだが、シュクルは“陽が入った”のではないだろうか?」
「まさか。んなことってあるんか?」
「ならば昨日、シュクルがスンタンを服用しているのを見たか?」
「……見てねぇ」
ジャンが脱力する。
「スンタンで陽の毒から身体を守る。我々にとっては当たり前のことだが、シュクルは記憶喪失だから忘れていてもおかしくはない」
「シュクル、スンタンって知っちょるか?」
「……知らない」
「盲点だったな」
「おっ、嬢じゃねえか!」
ジャンが窓の下に朱色の髪を見つけた。
「おはよ、入るわよ」
三階の窓から顔を出して手を振ったジャンに言って、ベニアは店の中へと入る。彼女が階段を上がる音を聞きながら、ハルトは難しい顔を崩さずにいる。
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