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「……よっぽど疲れたんだろうなぁ。
 なんでぇ、ハルト。怒ってんのか?」
「怒ってなどいない」

 そう言いつつも眉間に皺を刻んだまま立っているハルトに、ジャンが呆れ顔をする。

「どした?」
「今朝のことをぶり返して悪いが――まさかミスターに、あんな風に答えるとは思わなかったものでな」
「なんの話だ?」
「棺桶を見て自分のサイズには合わないと言ったことだ」
「なんでぇ、そんなことか」
「普通は嫌がるものだ」
「オッチャンは全然嫌じゃねぇぞ。人はいつか死ぬものだしな」

 ジャンの顔に悲観の色は無い。

「シュクルを引き取るつもりなんだろう?」

 しばらくの沈黙の後ハルトが言った。

「記人ってんのは人の心も読めるのか?!」
「お前の考えが分かりやすいだけだ」

 笑いそうになったジャンの口をハルトが手でふさいだ。
 静かにしろ、と指を立てる。

「ハッキリ言う。お前はシュクルの保護者として不足だ。まず馬車の件でもそうだが、安全管理に対して意識が薄過ぎる。それにまたアラギジルのような者たちにシュクルが狙われたらどうする? 守りきれないだろう? それにまだミスターとの関係も明らかになっていない。
 私はシュクルをマナエン様に預けるのが良いと考える」
「そうだな、ハルトが言うんだから、きっとそうなんだろうな。
 だけどそれって、気持ちを無視してんじゃねぇか?」

 ジャンはシュクルの髪を撫でる。

「まぁ聞いてくれよ。オッチャンはずっと父親っていうもんに憧れていたんだ。ザハルアルバリー《開かれた背中》から降りてこの街で暮らすって決めたときに、諦めたはずだったのにな。いざこうして“プレゼント”されると、たとえそれが血の繋がっていない誰かだったとしても、息子になってくれりゃあ嬉しいって、心の底から思う」
「だからこそだ。だからこそ、中途半端にシュクルを引き取ることは認められないと言っている。――失礼だが」

 ハルトは一呼吸置く。

「お前、歳はいくつだ?」
「36だ」
「いくら鈍感でも、私の言わんとしていることは分かるな?」
「ああ」
「シュクルはきっと酷く悲しむぞ。それならば初めから――」
「ミスターは」

 ジャンはうわ言のように呟いた。

「ミスターはなんで、こんなことをしたんだろうなぁ?」



(二章 了)


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