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 ハルトは予想が当たっていたことに憤りを覚え、また、シュクルが手遅れになる前に助けられたことに安堵した。
 失望の底にいるシュクルに「お前が無事で良かった」とは言わなかった。こういう時、荒唐無稽な力で励ませるのはジャンだけだ。だからその仕事は彼に譲る。
 自分の仕事は正しい情報を伝え、道を逸れないように助言すること。ただ次に何をするべきなのかを、淡々と考えるだけだった。

「――ロッソさんは?」

 シュクルは去り際に見たロッソの目を思い出して訊いた。
 こんな時でもシュクルは、自分を酷い目にあわせた奴らを心配しているらしい。溜め息を吐いたハルトをジャンが見る。

「ああ、嬢がなんか言ってたけんど……よく分からんかったなぁ?」
「言っていた、というよりは喚いていたからな」
「ほらぁまた怖い顔して! 仕方ねぇだろう? 目に苔……植物って聞いたら、嬢が神経質になるのも分かるってもんだ。あいつはマティだかんな」
「その話……途中までしか聞いてないや」
「マティはソルから派生したとされる種族だ。片方の眼窩に種を埋め込んで、自身の植物化を促す」
「どうして?」
「ヒトではなく植物として生きることが彼らにとっての美徳なのだ。最もベニアにとってはそうではないようだが?」

 ジャンが珍しく神妙な顔をする。

「嬢は自分が植物になっちまうのが嫌でマティの里から逃げてきたらしい。そんときに負った傷で死にかけちょったところを、ミーグに助けられて以来ずっとラワァーレ家に尽くしちょーんだ。
 最初は……ほら、根は良いんだが、あんなものの言い方だろう? 何かと問題を起こしちゃあメイドさんたちと衝突してたなァ。まぁ色々あったさ。だが今は上手くやってるみてぇだ。マナちゃんのおかげだな!」

 シュクルは眠気とともに弱くなっていく思考の中で思い出していた。ラベンダー色のあの人が、とにかく凛として強かったこと。不気味で美しいミスターが恍惚の表情で笑ったこと。別人のように言うことを聞いていたベニア、膝を折るロッソ、ヒフミの言葉――まるで夢のように目の前を過ぎていく回想。

「さあシュクル、もう今日は寝た方がえぇ」
「そうだな」

 とろんとした目のシュクルに二人は言う。

「安心しろ。先程の薬は師匠直伝のものでな、市販の物よりもよっぽど効き目があるぞ。効能は解熱、沈痛、滋養強壮――」
「ハルト、頼むから子守唄は別のを歌ってくれ。シュクル、ゆっくり寝ろ。泥のように眠れ。オッチャンがずっと付いているからな」
「ほんとう?」
「ああ」

 シュクルが目を閉じてジャンに鼻を擦り付ける。
 髪を撫でてやると、もう何の反応も無かった。



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