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「オッチャンのコネ?」
「ああ。共にマナエン様に無礼を働いてもらうぞ」
「はあ?」
「よく聞け。いくらアラギジルが領主の命令にしか従わないとしても、彼の一人娘であるマナエン様を邪険に扱うことはできない。何故なら彼女は純血で、間違いなく次期領主になられるお方だからだ」
「なるほど!」
ジャンは頷く。
「もしマナちゃんの言うことを聞かなかったら、今は良くても将来追いだされちまうかもしれねぇってことだな?」
「加えてマナエン様の聡明さは記人の間でも話題になる程。そう簡単に丸め込められるとは奴らも考えないだろう。
だがそれだけの理由で動けなくなる程、アラギジルが軟弱ではないことも確か」
「どうすんだ?」
「マナエン様はあくまで時間稼ぎ。その間にベニアをミーグ様の元へ走らせ、シュクルを解放するよう命令書をしたためてもらう。マナエン様の力量と豹馬の俊足があれば十分可能だ」
「えッ! お前、嬢と仲直りしたんか?!」
「そんなわけがないだろう! ただ、使えるものは使うだけだ。シュクルの身には代えられない」
「ハルト……!」
ジャンがハルトの手を握る。
「おめぇはやっぱり、えぇ奴だなぁ!」
「熱苦しい、離せ!」
ハルトがジャンの手を振りほどく。
「ふん。それにあの女『干し草野郎の無礼っぷりを訴えるためなら走ってもいい』らしいからな。せいぜい無礼を働かせて頂こう」
「お前根に持つタイプなんだなぁ……」
「職業病だ」
「つ、着きました」
疲弊した御者の声に二人は馬車を降りる。
月光と優しい灯が大きな屋敷を浮かび上がらせている。無限に続くようなラベンダー畑の中に建つそれは、コーレニの名家の一つラウァーレ家の屋敷だ。傍に流れる大きな川からは、たださらさらと穏やかな水の音が空気を揺らしていた。
正門から中年の女性が駆け寄って来る。
「ジャンパルダフラ様!」
「おぅいプルバイ! えれェことになっちまったんだ!!」
プルバイは頷いて、ジャンの隣のハルトを見た。
「初めましてメイド長のプルバイです。ハルト様ですね?」
「何故私の名を?」
「全て伺っております」
プルバイは腹の前で指を組んだ。
「お嬢様からの伝言をお預かりしています。『書をしたためるよりも早く、領主自ら出向いてきます』と」
「んん? どういうこった?」
「まさか」
ハルトが声を上げる。
「ええ。マナエン様の初仕事に御座います」
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