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 突然脳天を貫いた激痛にシュクルは悲鳴を上げた。

「シュクルを殺す気?」

 ヒフミの僅かに怒りを含んだ声。
 床に倒れたシュクルが見ると、ロッソがヒフミの手首を掴み上げていた。

「俺は五分だと言ったんだ」
「だからって強制終了していいわけ?」
「お前は時間も守れないのか」
「最初に時間が足りないって言ったでしょ? まっさらなシュクルに、どんな情報を与えるべきか判断するだけでも時間が掛るのに、五分なんかで全部終わらせられないよ。プロトス・ジルでもあるまいし」

 ヒフミは淡々と述べるが、ロッソの目は殺気立っていて、シュクルはその場にいるだけでも生きた心地がしなかった。

「おい、立て」

 ロッソはヒフミの手首を放すと、まだ意識がぼやけているシュクルを無理矢理立たせた。

「しゃべる気になったか?」
「……」
「今みたいな痛い思いを、もう一度してみるか?」

 シュクルは答えられなかった。自分に優しい選択肢などなく、かといって嘘をつき通せる自信もなかった。

「強情なやつだな」

 頬をぶたれた。
 シュクルはそのまま糸の切れた人形のように、椅子に降ろされる。
 口の中に血の味が広がる。

「あーもうヤだよ、子どもに八つ当たりなんてさ。そんな下らないことやめて、早く仕事終わらせちゃおうよ」
「初めからそのつもりだ」

 ロッソは俯くシュクルの前に座った。

「記人にはランクがあることは知っているな? ハルトがC、ヒフミがA、そして俺はS。そしてSランクの規定はこうだ――顕著な実績を積み、かつ記人術を使いこなせる者。
 俺は、記憶喪失を治す術が使える」
「ほんとう?」

 シュクルは顔を上げた。

「そんなことが、ほんとうにできるの?」
「ああ。だがこの術は、本当に記憶喪失の者にしか使えない。記憶喪失でない者に使うと重篤な症状を呈することがある。だから俺たちは、お前が嘘をついていないか確かめていたんだ。」
「そうだったんだ……」

(嘘だ)
 ヒフミは全てを分かった上で、何も言わず傍観している。
 ロッソのような高位の記人であろうとも、記憶喪失を治すことなどできない。なぜならその人が失った記憶は自身の人生であり、その人しか持ち得ない主観的な記録であるからだ。
 ロッソは今“無い記憶まで思い出させようとしている”。シュクルに記憶が無いことを確認して、記憶を捏造しようとしているのだ。そしてそれはミスターが全ての元凶であるという証拠となる。
 人の記憶を書き変えること。それは記人が決して犯してはならない罪であり、極刑に値する。

「おねがい」

 シュクルが言った。

「ぼくが誰なのか、おしえて」
「――目を閉じろ」

 シュクルが瞼を閉じる。打たれて赤くなった頬に涙が伝った。
 ヒフミはロッソがシュクルの額に指を置くのを見ながら思う。
 これでもう苦しむこともないだろう、と。

「始めるぞ」

 ロッソの指先が光り始めた。

「大変です!」

 乱暴なドアの音にヒフミは振り返った。真っ青な顔をした部下が息を切らし、敬礼するのも忘れてドアにしがみ付いている。

「何なの?」
「奴が……ミスターが現れました!」
「なんだと」

 ロッソはシュクルの額から指を離すと、部下へ向き直る。

「真っ直ぐこちらへ……もうそこまで来ています!」



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あきゅろす。
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