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「オッチャンにプレゼントだって?」

 菓子屋の前だった。
 野次馬の輪に囲まれて、ジャンとハルトが誰かと話しているようだった。

(何にも見えない……)

 目の前にいる野次馬の頭が邪魔だった。しかし身体が動かない。

(そっか。これはぼくの身体じゃないんだ――あっ)

 身体が勝手に動いた。どうやらここでヒフミが移動したらしい。
 人を押し退けて前へ進んでいくと、今度は山のような花と、色とりどりの液体が入ったビンを積んだ荷馬車が視界を阻んだ。

「オッチャンの誕生日はまだ半年先だぞ?」
「キミに拒否権はないよ」

 初めて聞いた声は、ねっとりとした中性的な声だった。

「ミスターが決めたことだから、誰にも変えられない」

 ゴトン、と何か重たいものが地面に置かれる音がした。

「これは……」
「ガハハッ! おいおいミスター、オッチャンのにしては小さ過ぎるんじゃねぇか?」
「おい、主人」
「えぇんだ。兄ちゃんが気にするこたねぇ」

(ああ、なんでもっと前へ行かないの?!)
 シュクルはヒフミの立ち位置を恨んだ。今、荷馬車の向こうでジャンとハルトが会話しているのは、ミスターに違いなかった。こんな近くにいるというのに、顔さえ見えないなんて歯痒過ぎる。

「コレはとっても繊細だからねェ……気を付けて」

 シュクルがやきもきしている間に、ミスターはプレゼントをジャンに渡したようだった。
 そこで再び身体が動き出す。横から回り込むつもりらしい。

「繊細? 蜜細工じゃねぇのか?」

 ジャンの顔が見えた。傍にハルトも立っている。そしてその前に立っているのは――。

「ユメじゃない。けど、とっても甘ぁい」

 ショックで何も聞こえなかった。シュクルは見た。見間違えるはずもない。
 自分が真っ黒な棺桶に入っていた。

「こりゃァすげぇ、大作じゃねぇか!!」

 棺桶の蓋を落としてジャンが目を見開く。

「ははぁ、棺桶なんかに入れやがって。オッチャンを驚かそうとしたんだな? これ《ユメ》で作った人形だろう? ミルクみてぇな肌。クリーム色のふわふわした髪。見るからに甘そうだな!
 いやでも、本当によくできてらぁ……」

 ジャンがまじまじと“人形”の顔を覗きこむ。
 ミスターの口角がつり上がったことも、ハルトがそれを見て眉間の皺を深くしたことも、シュクルの目には入っていなかった。手のひらは玉の汗を握っている。

「おい」

 ハルトの声と同時に“人形”の頬に触れたジャンが閉口する。
 それは紛れもない人肌の感触だった。

「ミスター?!」

 聞いたこともない怒号にも似たジャンの声が事件だと告げた。
 隣で女の人の悲鳴が聞こえ、クモの子を散らしたように野次馬が逃げて行く。
 予測された展開。シュクルは他人事のように突っ立っている。

「死体じゃない」

 ミスターが笑う。

「今、生まれたんだ」
「あああぁぁぁぁあああ!!」



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