7
シュクルは言われたとおりにした。
ためらう気持ちはなかった。
ジャンの家で目を覚ます前の記憶が一つでも取り戻せるのなら、誰の言いなりにさえなってもいい。
「深呼吸を二つしたら記憶への介入を始める。初めだけ少し気持ち悪いかもしれないけど、気にしないで。瞼の裏に浮かぶ映像だけに集中するんだ」
「うん」
深呼吸。そして、深呼吸。
急に頭が重くなって、首で支えられなくなった。
意識がにごり始めて遠く細くなる。
頭の奥から何かが忍び込んでくる。
(――ト……って?――)
ジャンの声。
直接聞こえたその声に思わず頭を上げると、ヒフミの手がそれを下げた。
「今ここで起きていることじゃない」
信じられなかった。
だって、傍でジャンの声が聞こえるんだ。
そう言いたかったけど、目の前に鮮やかな風景が現れて、何も言えなくなってしまった。
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