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「ならば久しぶりに記人に戻って、シュクルに必要な記録を伝えてやったらどうだ?」
「その言い方じゃ、僕にやれっていうことだよね?」
「ああ。俺は少し休ませてもらう」
「また頭が痛いの?」
「ああ」
ヒフミが髪から指を離してロッソを睨む。
「また?」
「お前は疑い深い奴だな」
「僕はただ心配してるだけだよ」
ロッソはシュクルに顔だけ向けた。
「演技の上手さに免じて、五分だけお前に時間をやる。ヒフミになんなりと教えてもらえ」
「無理。時間が足りない」
ヒフミが抗議する。
「術を使えばいい」
「よく言うよ……失敗しても責任取らないからね?」
「早く行け」
「はいはい。
シュクル、付いてこいよ」
ヒフミはロッソが向かった先とは別の方向に歩き出した。
少し離れて付いてくるシュクルに、ヒフミは振り返る。
「僕たちが怖い?」
「……」
「死にそうな顔してるよ」
ヒフミが面白そうに目を細める。
「でもね。君が怖いと思うのは、僕たちが剣をさげているからじゃない。僕たちが一体何なのか分からないからさ。人はみんな得体の知れないモノを怖がる。君にとってアラギジルは“オバケ”なんだよ。
だからシュクル。僕たちのことを知りなよ。そうすれば少しは顔色がマシになるんじゃない?」
「……そうかな?」
「たぶんね」
シュクルはほんの少しだけ、息がしやすくなったような気がした。
ヒフミにはロッソには無いフランクな雰囲気があった。
「アラギジルっていうのはね、元は昔、ある領主の独裁政治を見かねた記人が作った、治安維持組織なんだ。
記人には永久中立の掟(オキテ)がある。決してどの領地の政治にも介入してはならないんだ。だから彼女は機関を抜け、全く別のものとしてアラギジルを組織した。それが全ての始まり。
そしてアラギジルは苦しめられている民に受け入れられ、数々の領地を救った。これは過去の話」
ヒフミは歩きながら髪を指に巻き付けている。
「今はそうじゃない。時代は変わり僕らは滅びゆく運命にある。
だけど、そんな僕らに手を差し伸べてくれた人たちがいる。それが、ラワァーレ家だ」
「だったらなぜ……」
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