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 ***

 アラギジルの屋敷は街から離れた林の中にあった。
 シュクルが赤髪の男――ロッソに促されて馬車から降りると、ラベンダーのにおいがした。
 屋敷の広い庭にラベンダーが群生していた。

「見てのとおり、この屋敷はラワァーレ家の所有物だ」

 シュクルがロッソを見上げる。
 ロッソはシュクルの顔を一瞥すると、ついて来いと言わんばかりに前を歩き始めた。

「今お前は、我々が屋敷を奪い取ったのではないか? と思ったのだろうが、それは違う。正式に領主から貸して頂いているものだ」
「どういうこと?」

 ロッソは無視するように前を行く。
 シュクルは縄一つ掛けられていない自身の身体を見て戸惑った。
 ここから逃げられるはずがないという絶対的な自信が、ロッソにはあるのだろう。

「お前は記憶喪失の真似が上手いな」

 何も言わずに付いてきたシュクルにロッソは嗤った。

「ちがう……」

(ぼくは本当に、何も覚えてないんだ)

 ヒフミはシュクルの後ろ姿を見ながら、水色の髪を指に巻き付けて空を仰いだ。

「ロッソ、どうする? 記憶喪失であろうとなかろうと、このまんまじゃ話にならないよ」



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