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アラギジルの屋敷は街から離れた林の中にあった。
シュクルが赤髪の男――ロッソに促されて馬車から降りると、ラベンダーのにおいがした。
屋敷の広い庭にラベンダーが群生していた。
「見てのとおり、この屋敷はラワァーレ家の所有物だ」
シュクルがロッソを見上げる。
ロッソはシュクルの顔を一瞥すると、ついて来いと言わんばかりに前を歩き始めた。
「今お前は、我々が屋敷を奪い取ったのではないか? と思ったのだろうが、それは違う。正式に領主から貸して頂いているものだ」
「どういうこと?」
ロッソは無視するように前を行く。
シュクルは縄一つ掛けられていない自身の身体を見て戸惑った。
ここから逃げられるはずがないという絶対的な自信が、ロッソにはあるのだろう。
「お前は記憶喪失の真似が上手いな」
何も言わずに付いてきたシュクルにロッソは嗤った。
「ちがう……」
(ぼくは本当に、何も覚えてないんだ)
ヒフミはシュクルの後ろ姿を見ながら、水色の髪を指に巻き付けて空を仰いだ。
「ロッソ、どうする? 記憶喪失であろうとなかろうと、このまんまじゃ話にならないよ」
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