[携帯モード] [URL送信]
12


 ***

「もっと急げ」
「は、はいぃ!」

 馬車が壊れそうな音を立てながら走っている。
 御者は流れる汗を拭うことすら忘れて、ひたすらに鞭を振るっていた。
 順番待ちの客を押し退けてきた急ぎの客が、邪険に扱える職業の者ではないと知ったからではない。彼の凄まじい威圧感に圧倒されたからだ。

「まさか乗馬できないとはな。聞いて呆れる」
「すまねぇ」

 激しく揺れる狭い馬車のなかで、ジャンがその巨体を縮ませている。
 ハルトは徐々に近づいてきたラウァーレ家の本屋敷の灯りを睨む。
 本当なら一人馬をとばして来ることもできた。しかしジャンを連れて来ない訳にはいかなかった。

「なあ、ハルト。オッチャンはどうも分からん」

 ジャンが顎に手を当てる。

「アラギジルの奴らは一体何を言ってたんだ? どんだけ考えても、ちっともシュクルを連れてく理由が分からんのだ」
「私にも分からん。理解しかねる」
「へえッ?!」

 ジャンが素っ頓狂な声を上げる。

「ハルトにも分からんことがあるんだなァ! そうかそりゃオッチャンにも分からん訳だ!」

 ガハハとジャンが笑う。それは昼間と変わらぬ快活な笑い声だった。

「……ああ。私も未熟だな」

 ハルトは決して笑わなかったが、一瞬自身の眉間が緩むのを感じた。
 まだシュクルが助かったわけではない。しかし、どうもこのジャンパルダフラという男といると「何とかなるのではないか?」という根拠もない楽観主義がうつるようなのである。もちろんそんなものに髄まで毒される自分ではないが。

「シュクルをアラギジルから取り戻す。そのためにはお前のコネが必要だ」

 ハルトが腕を組む。



[*前へ][次へ#]

12/18ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!