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 シュクルがジャンにしがみ付いたまま、上目づかいに訊く。
 ハルトは僅かに眉間の皺を緩めた。

「いや間違ってない。ジュエラガーデニア特有種のウマだ。外見は“四肢が豹柄の白馬”と言ったところだな。
 最も一般的にいうウマとの違いは明確であり、そんな単純なものではない。第一に」
「出たあー。その堅ッ苦しい説明!」

 ジャンが馬鹿にしたように笑った。

「シュクルにそんな説明したって分かるかよ! ヒョー柄の馬でいいだろうが!」
「豹柄の馬ではない。四肢が、豹柄の、白馬、だ」

 緩んでいたハルトの眉間の皺がまた締った。

「細けぇ話はナシにしようぜぇー。シュクルは生きてんだし、えぇじゃねぇか!」
「良くない。それに元はと言えば、貴様の監督不足が引き起こした事故だろうが」
「それは謝る。スマン。しっかし、豹馬っつーと……あッ! やっぱそうだ!」

 ジャンは姿を現したその人物に手を振った。

「おーい! 嬢ォー!!」

 ハルトとシュクルが意識した時にはもう、目の前に件の女がいた。
 豹馬の俊足に遅れて風が吹く。
 騎乗したまま彼女は言う。

「その『嬢ォー』って伸ばすのやめて。ジョーって名前みたいでヤなんだけど」
「わりぃわりぃ。ベニア」

 大笑いするジャンの横に女――ベニアは降り立ち、シュクルに歩み寄った。
 背が高い。
 彼女は片手を腰に当てながらシュクルを見下す。
 それが身長差とは関係のない態度だということに、シュクルは次の言葉を聞くまで気付かなかった。

「で? ジャンはその世間知らずと知り合いなワケ? オレンジ一個分の価値も無さそうなんだけど」

 むき出しの棘で二度も刺した。
 シュクルの手が強く握られるのを感じたジャンは笑いこそはしなかったが「アッチャー、やっちまったな」という科白を顔に貼り付けている。
 そこにもう一つ、意外なところから棘が飛んできた。

「……何も知らないのは貴様のほうだろう」
「ハァ?」

 ハルトの眉間の皺はもはや彫刻だった。
 貴様呼ばわりされたベニアは彼の前に進み出る。

「バエルが鳴ってんのに、道のど真ん中に飛び出すバカを、世間知らずと言ってなにが悪いの?」

 ハルトは信じられないという表情をして、

「馬車が通る警告音としてバエルを利用しているのは、この街だけということを知っているか?
 そしてまだテスト段階であるということも?」

 と言った。ベニアの表情が揺れた。

「そんなこと! そんなこと知らなくても、フツー周りの人が道の端に避けて行ったら、自分も避けるでしょっ?」
「何の根拠も無いな」
「うるさい! ジャンなんなのコイツもアンタの知り合い?!」



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あきゅろす。
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