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「わっ!!」
強い風がぼくを貫いた。
吹き抜けて舞い上がる、七色の花びら。
反射する強い陽光に眩暈がする。
後ろに突き倒されるような、圧倒的な生命力だった。
空から、花びらが降ってくる。
名前なんて知らない。豪勢な命の紙吹雪が、ただ降るばかり。
美しい街だった。
陽光が乱反射して眩しい。白壁なのはジャンの家とその隣家だけではなかった。その隣の隣も、真向かいも、遠くに続く建物も白壁だった。そしてその壁には、茫々に花を溢れさせた植木鉢が掛けられている。
まるでデコレーションケーキだ。
欲張りなケーキだ。
壁だけではない。玄関も、窓辺も、バルコニーも、オープンテラスのカフェのパラソルの柄も、看板も、果ては屋上までもが、たくさんの花と植物で飾り立てられている。
赤、青、ピンク、黄色、紫、緑、白、シマシマ、マーブル、グルグル、ギラギラ、クラクラ。
色と模様の洪水。溺れるという感覚。
道を行く人々よりも植物の方がまさっている! 繁っている! 生きている!
「……う……」
眩暈が酷くなって道端に座り込む。
それでも目を離せなかった。
広い通りには屋台や市が並び、色んなものを売りさばいている。
パニーニ、数種類の煎り豆を葉野菜で包んだもの、毒々しいほど鮮やかな色の飲み物、真っ赤に熟れたトマトもあれば、見たことのないイガイガの変な果実もあった。
籠一杯に入った瓜を手にとっては、真剣に見比べるおばさん。
針金にぶら下がったドライフルーツの詰まった袋を指さしては母親に「買って!」と駄々をこねる子。
屋台からの匂いに誘惑されて足を止める人々。
驚くことにその容姿は、ぼくと余り変わらなかった。
ただ髪の色も目の色も派手でバラバラで、それこそ植物の種類と同じくらいの、膨大なパターンがあるように思える。
予想外だったのは、ジャンのような白い刺青みたいな模様が入った褐色の肌のひとがいなかったことだ。
というより、まず、褐色の肌のひとが一人もいなかった。
――カランカラン
突然ベルの鳴る様な音がした。
人々は会話を止めることもせず、自然な動作で道の端に避けて行く。
(この音はどこから……?)
見回すと、向かいの角に街灯のような大きな植物が植えられているのが目に留まった。
「なんだろう……あれ」
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