ふかききりまとう
情けないと分かっていても、潤む目をどうしようもなかった。いや、分かっているからこそ涙が出てきた。
ただでさえ最悪な状況なのに、買ったばかりの、しかもよりによって汚れの目立つ白色のミュールを、自らの手で田んぼに投げ込んでしまった。
けど、いくら自分がした事とはいえ、原因はあのハゲにある。ハゲさえいなければ……ハゲさえ迎えに来なければ、こんなことになっていなかった。
(っつーか、なんでじいちゃんの友だちも、あんなハゲを迎えに寄越すかなぁ? 孫の性格ぐらい把握しろよ。教育なってないよ。頭おかしいんじゃないの? ばあちゃんもばあちゃんで、駅の近くに家があるっていってたくせに、どこが近いのよ。
ああッ、むかつく! 最悪! 最悪最悪ッ!!)
「許さん……あのハゲ……」
足の生えたオタマジャクシや、黄緑色のカエル。そして死ぬほど嫌いな虫だらけの田んぼから帰還した野々子は修羅と化していた。
振り切れた表情。
泥だらけの素足で太陽に熱せられた畦道をゾンビのように、ひたり、ひたり、と歩く。
その左手には輝かしいばかりの白いミュール、右手には怨念の篭もったおぞましい茶色いミュールがぶら下がっている。
「う、ふふ」
不思議と笑いが込み上げてくる。
もはや、熱さも暑さも、怒りで麻痺して感じない。
どんな虫が出てきても、平気な気がした。
二つの山は、山といってもそれ程大きな山ではなかった。そして散策しがいがありそうな、雰囲気がある。
山の間に入ると急に涼しくなった。陰に入ったということもあるが、山と山の間を微弱でも風が抜けて行くからだろう。
「涼しいー」