羽音、そして世界は
土潤溽暑-3
「毎日毎日ケンカばっか! それを聞かされてるお母さんの身にもなってよ!」
「仕掛けてきたのは野々子の方だよ」
「は? 姉ちゃんの方でしょ。そのくっだらない騒音! ていうか、お母さん、包丁怖いから」
「くだらない……?!」
「少しは黙りなさい!」
姉の反論するより、母が強かった。
「分かったわ。野々子、あんた、おじいちゃんちに行きなさい」
途端に野々子の目が見開く。
「えぇ! やだよ、あんな田舎! 虫いっぱいいるじゃん!」
「……虫くらいで騒ぐなよ」
「じゃあ姉ちゃんが行けばいいでしょ!」
「お姉ちゃんは予備校いってるからダメ。野々子が行きなさい」
「なにその差別! てか、私だって行けるもんなら行きたいよ。友だちもみーんな行ってるし! 行ってないのあたしだけだよ? でも姉ちゃんのでお金掛かってるから無理だって」
「そうね、そこは悪いとは思ってる。けど、やっぱり野々子が行くべきよ」
「なんで!」
「あんた、こっちにいても遊んでばっかりでしょ?」
「姉ちゃんだってライブ行ってるじゃん!」
「お姉ちゃんはライブだけだもの。それ以外はちゃんとしてるのよ。今年ダメだったら諦めて就職するって約束したしね。
でも野々子は違うでしょ? お母さん、知ってるのよ。図書館行くと見せかけて遊びに行ってることも、部屋で参考書代わりに漫画読んでることも。
どう? 反論できるかしら」
途端に野々子は言葉を失う。その引きつった表情に母はトドメを刺した。
「実はね、おじいちゃん達にはもう言ってあるの。明日朝一番の電車で行くんでよろしくお願いします、ってね」
「明日?!」
「漫画全部捨てるわよ」
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