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〜7話〜



――あの日のことは、実を言えばあまり覚えていない。
ただはっきりしていることは……俺は家族を失ったと言うこと。
いや、それ以外に俺は、何かを忘れてる気がする。
大事な大事な、何かを。



燃え上がる村、そして人。
炎の赤と、血の赤が混ざり合う地獄の中で。
父親も母親も兄貴も目の前で死んで、ただただ泣きじゃくる俺の手を取って。

『泣いててもしゃあない!!』

自分も涙を沢山零しながら、けれど強く俺を導いてくれたアイツが居た。



‐‐――

「ヒヨ!」

今の自分の名前を呼ばれて、漸く頭が現実に向かって覚醒を始めた。
いつの間にかソファの背もたれに身を預け、悪夢のような過去の記憶にふけっていた俺の目の前には、黒髪眼鏡の男が居た。

「オシさん…」

…………と、誰だよ?

「彼がもう1人の戦士か」
「せや。目付き悪ぅて性格悪い奴やけどな」

見知らぬ男2人が、俺の顔をマジマジと見つめて来る。
茶髪の男は、とにかく優しさを全面に押し出したような爽やかな少年だ。
歪み切ったこの世界で、ここまで陰りの無い表情を出来る奴が居るなんて。

黒髪の男は……まず目に付く細目を手に持つノートに向け、何やら書き込んでいるようだ。
何なんだ、一体。

「オシさん、何ですかコイツら」
「ん?ああ、同じ戦士やて」

……………何?
ノート野郎はともかく、その爽やかは絶対に違うだろう。
こんな穏やかそうな奴が、戦士になる筈が無い。
いや、戦士ならこんな呑気で居られない。

「証拠は?」

ソファから飛び上がるように体を起こす。
万が一の不意打ちに備えて近くに置いてあった俺の刀は、変わらぬ場所にあった。
構え、特に爽やかな野郎に向ける。

「これが証拠だ。サエも、ほら」

細目が至極冷静に『身分証明カード』を懐から取り出し、爽やかもそれに続く。

「そんなもの、戦士を倒して奪えば何とでもなる」

本当は分かっている。
神から授かった力を持つ戦士が、雑魚相手に簡単に殺られる筈は無いと。
コイツらが本物だと知りながらも、認めるつもりになれない。

「仕方ない……な」

黒髪が腰から短剣を抜き、構えた。
2本の剣を刃が地面を向くように持ち、両の手を顔の前でクロスさせている。
もう一方の茶髪はと言うと、武器を手にさえしない。
やはり、こっちはどれだけ譲っても戦士とは程遠いな。

「な!?」

卑怯者と罵られても構わない。
俺は、無防備な奴に標的を定めた。

「サエ!!」

もう遅い。
味方の防御は間に合わず、目の前のコイツは首を下に転がすことになるだろう。
覚悟の無い奴は…………死ね。

ガキィッ

皮、肉、骨を断ち斬る感触では無く、刃物のぶつかる音がした。
勿論、俺の攻撃を受け止めたのは狙った奴では無く。

「………何しとんや、ヒヨ」

まるで修羅の如く、鋭く俺を睨み付けるオシさんだった。



END..



(下剋上戦士・ヒヨ)

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