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〜6話〜



――あの日のことは、絶対忘れたらアカン。
そう思うのに、俺は何かを忘れとる気がするんや。
大事な大事な、何かを。



刃で肉を断つ…感触。
こんなん、肉屋にでもならん限り……知るとは思わんかったわ。
せやけど今の俺は、毎日毎日片っ端から人を斬る。
人を助けながらも、人を斬っとるんやで?
笑えるわ。笑うしか無いん、もう。

「そっちは片付いたんか?ヒヨ」
「貴方に心配される程、落ちぶれちゃいませんよ。オシさん」

相変わらず、口の減らん相方やな。
俺は刀に付いた血を軽く拭いながら、ヒヨの方を見た。

普段はサラサラな茶色い髪は、じっとりと滲み出た汗に張り付いて。
何でも無さそうな顔をしてても、やはり息は上がっているようで肩が僅かに上下しとる。
でもな、多分コイツの疲労は……肉体的なものやなくて、精神的なものや。
本来なら俺ら、中学校に行って勉強やら部活やらを楽しんでる筈の歳やからな。
……………魔王さえ、居らんかったら。



一仕事を終えると、宿屋に戻る。
今のところI地区を拠点に動いとるけど、そろそろ敵も減って来たから他の地区でも行くか。
そんなことを考えながら、生温いシャワーで跳ねた返り血を流す。
………そういや、最初の内は殺った後に飯とか食えへんかったな。
今はモリモリ食うで。体力持たんからな。

「ヒヨ、シャワー空いたで」

座ったまんま寝てたんやろか、ビクッと体を揺らしたヒヨは、ゆっくりとこちらを振り返る。
うわ、相変わらず目付き悪っ。

「ちょお、夜の散歩行って来るわ。シャワー出たとき、俺が居らんでも泣くなや?」
「誰が」

不機嫌な顔して悪態付いたくせに、小さい声で言ったんや。

「…………風邪、引かないように気を付けて下さいよ」



‐‐――

可愛くない奴だけど、憎むことも嫌いになることも出来んのよなぁ。
何かヒヨって、一緒に居ると懐かしい気がすんねん。
……アイツと、同じ歳やからかんな?
そういや、アイツって今何処に居んのやろ。
何となく……死んでは居ない気がすんのや。何となく。
名前も顔もうろ覚えな。
せやけど……めっちゃ、大切な奴。

ヒュッ

と、風を斬る音がして、我に返った。
と同時に、首筋に冷たい感触。

「………戦士、だな?」

背後から聞こえる、低い声。
誰だか知らんが、なかなかやるな。
こんな状況だと言うのに、つい笑みが零れてもぅた。

「や、止めなよナギ……まるで俺らが悪者みたいだよ…」

別の方向から、違う男の声が聞こえた。ち、複数なんか。
………いや、待てや。

「アンタら、もしかして同じ戦士なんか?」
「そうだよ」

大分暗闇に慣れて来た瞳が、目の前に居た茶髪の男を捕らえた。
戦士だと言うのに……憎悪も何も感じへん、ただただ穏やかな奴やった。

「手荒な真似をしてすまなかったな」

刃の感触が離れ、振り返ると黒髪の男が居た。
……間違いない。こっちは細目で表情はよく分からんが、隠そうとしない醜い感情はひしひしと感じる。
戦士らしい、奴や。

「俺は六角戦士・サエ」
「俺は記録戦士・ナギだ。宜しく頼むぞ」

何を宜しくするんだか分からんが、俺は取り敢えず差し出されたサエの手を握り返した。



END..



(天才戦士・オシ)

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