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〜5話〜



このI地区に居ると思われる戦士は、2人。

1人は、黒髪に丸眼鏡。
特徴的な訛りのある口調で話す。
1人は、茶髪で前髪が目に掛かる程長い。
口調は普通だが、声にクセがあり特徴的。

この情報をサエに伝えれば、彼は心当たりがあると答えた。
………ここまで来れば、偶然で片付けてしまうのは惜しい。
魔王、帝王、そして戦士。
関わりのある者は恐らく全て、サエは顔だけなら知っているのだろう。



「……早速捜索を、と行きたいところだが…もう日も暮れた。サエも、慣れないことばかりで疲れただろう?今日は直ぐに宿屋を探して休もう」

そう言うと、ややサエの表情が和らぐ。
何だかんだで気を張っていたのだろう…休息が取れると聞いて、安堵したようだ。
俺はI地区の情報が書かれたノートを取り出し、現在位置と宿屋の場所を確認する。

「こっちだな。着いて来い、サエ」

すっかり緩んで顔をして、素直に俺の後に続くサエを見て。
何だか小動物を手懐けたような気分になったのは、恐らく気のせいだ。



‐‐――

宿屋に簡素な荷物を置き、サエと共に食事処に向かった。
この世界に来て初めての食事であるサエは、先程から輝かんばかりに瞳を開き、メニューを見つめている。

「ウニ無いかな?ウニ」
「もう少し海寄りの地区ならば、用意があるかもしれないが…」
「そっかぁ……」

あからさまに落ち込むサエの対応に困る。
正直、慰めるのは…苦手だ。

「あの、サ…
「あ、すみません!塩ラーメンと半チャーハンのセット1つ!」

………俺の心遣いは杞憂に終わったようだ。
何となく苛立ちが収まらない俺は、食は細い方だと言うのに、必要以上の量を注文してしまった。
勿論、食べ切れる筈も無く……仕方なく残そうとする俺を、サエが見つめている。

「………何だ?」

想像以上に、感情の出ている声だった。
そんな俺に少し躊躇しながらも、サエが言う。

「あ……食べないならそれ、貰っても良い?」

まだ食べるのか。
驚きのあまり目を見開いてしまった俺に、更に恐縮しながらも「駄目かな…?」と小さく訪ねるサエ。
「仕方ないな」なんて、少々ひねくれた言葉を返すと、サエはニコリと笑った。



結局、俺の残りを全て平らげたサエが満足そうに座っている。
宿屋に戻った俺達は、特に何を話すことも無く…時間を持て余していた。

「シャワー、先に借りるぞ」
「うん。いってらっしゃい」

受付で借りて来た適当な雑誌に目を向けたまま、サエが答える。
目線は字を追ってはいるが、真面目に読んでる訳では無いだろう。
何となく、分かる。

脱衣所で服を脱ぐ。
予め設置されている全自動洗濯乾燥機に脱いだものを放り込み、蓋をする。
ここで、また役立つのがこの『身分証明のカード』だ。
これにはクレジット機能が備わっていて、こうしてカードリーダーに通すだけで何でも使用することが出来る。
いわばこれが、俺達の給料のようなものだ。

『戦士』で在り続ける限り…平穏には暮らすことは出来ないが、金には困らない。
まぁ…万が一怖じ気付いて辞めてしまったところで、戸籍も金も何も無い状態で生き延びるのは不可能だろうがな。



軽く汗を流した体に、洗い立ての衣類を纏う。
髪の水気を拭き取りながら部屋に戻ると、サエが足をベッドの外に投げ出したまま、寝息を立てていた。

「おい、サエ。シャワー空いたぞ」

肩を掴み揺さぶってみたところで、全く起きる気配が無かった。
仕方なくサエの靴を脱がせて、ちゃんとベッドに横にする。

「………おやすみ」

今日は疲れたのだろう。
大人しく寝かせてやることにした。
明日からはもう……甘いことは言っていられないからな。

自分の意思は全く関係無く、異世界から来て戦士になった彼に、少しだけ同情して。
俺も、早めに床に就いた。



END..



(記録戦士・ナギ)

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