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〜3話〜



「来訪者か」

また…新たに馬鹿げた復讐に闘志を燃やす、愚か者がやって来たか。
思って感覚を研ぎ澄ますと、それは違った。
今回の客人は、どうやら己が既に力を与えた者……つまり戦士のようだ。

「………もう一度ここにやって来るような奴は、1人。サエを連れて来るように頼んで置いたナギだな。つまり、もう1人の気配が……サエ」

成程。
確かに、同じ聖なる力の気配ではあるが……それは何処か弱々しさを感じる。
無理もない。魔王と言う存在を、ここに来て初めて知った奴だ。
力の源となる復讐心を持ち得る筈が無く、弱いのは当たり前。

「なんだって神は、俺の許可無くこのような奴を戦士にしやがったんだ……代償も無しに」

いや、代償は在る。
それは……自らが生きて来た世界。
見知らぬ世界に連れて来られて、魔王を殺すなんて言う…今までの平穏を崩すような責務を与えられた。
それがサエの捨てた…否、捨てさせられたもの。

「失礼させてもらう、帝王」

目の前の扉が開き、ナギとサエらしき人物が姿を現した。
神から告げられた特徴と一致するサエは、この城では初めて見るような不安げな表情を浮かべて、周囲を見回していた。
と、俺と目の合ったサエが言う。

「君は……あ――」

サエの口にした言葉が、上手く聞き取れなかった。
そのことに何故か異常なくらい寒気がしたが、無視することにした。

「……ようこそ、六角戦士・サエ。俺の名はケイ。帝王・ケイだ」
「………そっか。君も、なんだね。分かった、じゃあ質問に答えてもらっても良いかな?ケイ」

一瞬で、穏やかな表情になったサエが少し憎らしく感じた。
ああ……きっとそれはコイツが、何も分かっていないからだ。
そうに違いない。

「内容次第だ、まずは言ってみやがれ」
「うんと……何で、えと…ぷれいやーって奴が魔王を倒さなくちゃならないのかな?」
「初歩だな。良いか?魔王と聞いて……お前の知識の中ではどんなイメージだ?」
「イメージ………強くて、酷い奴で、漫画とかでは主人公の敵で…」
「そうだ、全くその通り。人々を脅かす存在は、倒さなくちゃならない。しかし魔王は強いから、普通の人間じゃ倒せない。てめーの言う、主人公に当たるのが戦士だ」

サエは呆然としながらも、驚いた様子は無い。
予想が当たって、当たったからこそ……放心してると言ったところか。

「で……ナギも言ってたけど、俺も、なんだね」
「ああ」
「………そっか…まるで、ゲームの世界みたいだ」
「異世界から来たてめーから言わせりゃそうかもしれねぇが、俺達にとっちゃ紛れも無い事実だ。忘れるな」

サエが黙り込む。
覚悟の無い戦士。腑抜けた戦士。
はっきり言って、これじゃ戦力にはならない。

「………何となく分かった。じゃあ、これが最後の質問。魔王の名前を教えて欲しい」

俺は、サエの要望の通りに魔王の名前を告げた。
それを聞いたサエは一瞬目を丸くして、次に魔王の容姿を尋ねて来た。
これを答えたときには、同時にナギも難しい顔をした。
まぁ……恐らく、魔王の面を見たことのある人間は、敵側以外では俺だけだろうからな。
何故なら……奴は滅多に城から外に出ない。俺と同じく。

「ありがとう、ケイ」

俺は、僅かに動揺した。
魔王の情報を与えた途端に、奴の顔付きが変わったから…だ。
本来の戦士の持つ……怒り、憎しみ、そんな感情は相変わらず生まれる筈は無い。
しかしサエの中には、確かに何かの決意が宿っている。

「行こうか、ナギ」
「……ああ」

やはりナギも動揺している。
俺とナギの思考は、似通ったものがある。
つまり、同じようにサエを戦力外と認識していたが故。



「………神よ、とんでもない者を呼び寄せたな…」

また独りきりになった城で、俺は小さく呟く。
例えるならまさに爆弾。
いつ爆発するか、いや、爆発するかすらも予測が不可能。
果たして、この最終兵器は吉となるか凶となるか。

「………さて、力のみを持つ者と憎しみのみを持つ者。どちらが魔王を倒すに値するかな?」

ふと、思い出した赤目の少年……力を得ることより、己が己であることを望んだアイツ。
対照的、尚且つ異色なこの2人が顔を合わせたらどうなるか。
楽しみで仕方なかった。



END..



(帝王・ケイ)

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