要望部屋 長編『甘密』菅原×鈴木/体育祭(長文) 「───ほら、流、言ってみろ」 「菅原先輩…っ、も、勘弁してください…!」 「むり」 「なんでええぇぇ」 ひらがな可愛い…じゃなくて!なんで俺は菅原先輩に言葉攻めを受けているのか!なにがどうしてこうなった…! 低い美声は俺ではなく、ぜひとも可愛いチワワ君に耳元で甘い言葉を囁いてじっくりたっぷりメロンメロンに落としていただきたいのに、なぜ俺か!殺す気か! …思い返せば、それは体育祭の昼休み時間前後に起こった事件(俺からすれば)である。 まあ自業自得な所もあるんだけど。 昼休み前の借り物競争最終、滾るに滾った後の追撃が、噂の王道転入生、霧島氏の萌え殺されるような結果である。 俺はその時、興奮が最高潮で声が枯れるとかまったく気にしないで叫んでた。 『速い!速いです萌えます滾ります!借り物において黄色が圧倒的強さ!なんだこれは狙っているのか俺の萌えを!まさか!嬉しいです!大好きですもちろん恋愛的な意味ではなく萌えをくれる人みんな大好きです!黄に青が迫っています!逃げ切れるか!行けるか!行けるか!行ったあぁぁあぁ!まさかの連続黄色一位!』 美形が多い黄色が、まるで俺を天国へ誘うかのように次々と萌えを(不可抗力で)提供してくれる中で、期待を裏切らない転入生がぶっちぎりの1位を獲得。 さあ、俺の投入したお題を期待通りに引いてくれるのかが運命の分かれ目である。主に俺の活力補給の。 そして、そして…!転入生は俺を殺す気なのか一直線に会長の元へ…! 恥ずかしいけど仕方なく行ってやるんだからね!的なツンデレも美味しいけど、素直に突っ込んでいくのもまたご馳走。 キラッキラしてる、キラッキラしてるよ!もう君たちに浜辺でおいかけっこしてほしい。 会長を連れてきた、というより途中から会長が転入生を連れてきたあたりで俺はもうヤバかったね!王道万歳。 確認するための先生が紙を受けとり、俺は早く早くと声を掛けた。 『では先生、お題と証明を!』 『えー、お題は『生徒会長』です。そのままだね、はいオッケー』 〜〜っ! こ、れ、は…ッ! テンションが急上昇して、幸せのガッツポーズを取って叫んだら。 『ダイレクトォオォォ!!そりゃ真っ直ぐ行きますわ。萌えましたわ。一直線に会長様に向かってそのままその包容力抜群の胸に飛び込んで『ガンッ』───っ、いってぇ…マジ効いた…委員長愛が痛いっす』 静かだった菅原先輩に思いっきりぶっ叩かれた。痛い。 愛が痛い、と言いながら振り返った俺は瞬時に振り返ったことを後悔した。 稀に見るにこやかな表情の菅原先輩がそこにいたのである。あ、これ死亡フラグ。 『俺の愛がその程度だと思ってるなら身をもって分からせてやろうか』 『すみませんすみませんすみませんごめんなさい今はやめてくださいマジで冗談に聞こえません』 これは色んな意味で溺死フラグゥゥゥ! まさかこんな堂々と溺愛発言するなんてマジで羞恥プレイ!言った菅原先輩ではなく俺が羞恥プレイってなんでだよ! 『ほぉ…冗談だと思ってるのか?』 言葉選び間違えたあぁぁぁ! 菅原先輩の大胆Sスイッチ押しちゃったよ!冗談じゃないよ! しかし菅原先輩はマイクが通っているのも視線が集まってるのも知っていて、知、っ、て、い、て!ぐいぐいと俺の耳に顔を近付けてくる。 当の俺は叫ぶしか出来ない。だって言葉出ない。 『ひぃいぃぃ!!近い近い近い近い!!』 『後で、覚えとけよ』 『っ!』 囁くような掠れ気味の美声に、腰がヤられるかと思った。 ゆっくり離れていった菅原先輩は涼しい顔で席に座り、周りの視線など意識すらしていない。 対して俺は熱くて熱射病になりそうです。水分下さい。 気をとり直して続けた体育祭実況。昼休み中は菅原先輩から逃げるのに必死でぐったりしてた。余韻半端ねぇ。 しかし俺は、後半からのあまりの興奮続きにまたやらかした。 それも後半最初の異種目競技で早々にである。 体育祭の異種目に特別枠として出てくれないかな、と種目決めの前に冗談半分でお願いした際、菅原先輩がふたつ返事で了承してくれた時点で思惑に気付かなかった俺の失態でもある。 っていうかそんな前からじゃ分かんないわ! しかし決まってしまったものは仕方ないし、出てくれることに歓喜して周りが見えていなかった。 『さあ特別枠の我らが委員長!俺はめげませんよその刺々しい視線にだって!めげないよ!だって聞きたいもん!低音美声聞きたいんだもん!』 菅原先輩のちょっと困った顔がヤバイ。 なんだろうこのトキメキ。 恋人が可愛いドジして仕方ないな、みたいな!みたいな!あっま!やっば! 『さあでは、聞かせてください菅原先輩!』 俺が菅原先輩用に書いた台詞は『そうやって嫌だと言っておいて、隙がありすぎるんだよ。素直に愛されてろ』とかいうついつい長くなってしまったものである。 だーってさぁ!菅原先輩が異種目に出てくれるってんで滾りが最高潮で、色んな台詞を調べたんだけど、徹夜してこれだった。 ぶっちゃけもっと言ってほしい台詞はあるんだけど、俺の未熟さ故、腐仲間には申し訳ないレベルになってしまったのだ。 さあ、どうぞ!と意気込んだは良かった。良かったが、だがしかし。 『…そんなに俺の声が聞きたいなら、後で全身が赤くなるほど聞かせてやる。覚悟してろよ、流(ナガレ)』 『っ!!《ゴンッ》』 えぇぇぇえぇぇ……、やばい『え』しか出ない。どうしよう、なにこれ。 ちょっと腐りきった脳が回転しないんだけど。 『い、委員長…俺の書いた台詞を言わずにアドリブとか……っ…まじ美声でそんなこと言わないで下さいぃぃぃ…』 『ここに書いてあるやつは後で耳元で言ってやるよ』 やめてぇぇぇぇ! 俺に言っても萌えないからやめてぇぇぇぇ! ドキッとしちゃった俺マジでなにこのフラグやばくない!? そして冒頭に戻ったわけです。 体育祭と立食パーティも終わった後の、なぜか一緒に(引き摺られるように)帰り俺の部屋での言葉攻めである。 砂糖水での溺死フラグである。 「───“そうやって嫌だと言っておいて、隙がありすぎるんだよ。素直に愛されてろ"」 「ッやめてぇぇぇぇ!」 「ほら、返事」 「……少し時間を」 「むり」 「うぉぉぉ…っ」 イケボ乱用ダメ絶対! END [次#] [戻る] |