中編
カメの防御力。
言葉を。
誰か俺に言葉を下さい。
「〜〜〜っ、」
だって、だって「また会えるだろ」って。
何より俺が衝撃を受けたのは、その発言もだけど、指の隙間から見えた宇佐見の顔が。顔が。
微かに、笑っていたんだ。
微笑。
ニヤリ、とか片方の口端が上がる笑い方は何度か見たことがあった。でも、ただ普通に可笑しいから笑うっていうその笑みが、俺にとってはとんでもない攻撃力を持っていた。
ライフゼロです。一撃です。俺めっちゃ弱っ!
すぐ無表情に戻っちゃったけど、あれは見間違いじゃない。
そのせいで余計に手を顔から離せなくなった。確実に俺の顔面は赤い。
「……っ、宇佐ちゃん、なんかタラシっぽい」
「何でだ」
頑張ってひねり出した自分の声は、いつも通りのものだ。返ってきた言葉もいつも通り。大丈夫、バレてない。
隠しきれなくなってきて、ニヤける口元が直せなくて、俺はついに机に腕を組んで顔を埋めた。
完全に見えなくなった宇佐見の表情に、俺が気づくはずもなく。
恥ずかしかった。
自分が宇佐見に本気なんだって気付いたから。
男に、とかそういうのは一瞬だけで、俺は宇佐見裕弥という人間を本気で好きなんだって改めて気付かされた。
引かれたくない。変な目で見られたくない。拒絶されたくない。
宇佐見にだけは。
ヤツは、俺と違って男に恋愛感情なんか抱く概念すらないはずだ。いや思い込みとか言われたら何も言えないし寧ろガンガン行けるじゃんって思うけど。
けど。
普通は、恋愛対象は、異性だから。
ミステリアスとか言われてる宇佐見だけど、やっぱりそこは、皆と一緒だと思うから。
言わない。
絶対、言わない。
ここで、宇佐見がこれを続けてる間、俺はずっと近くにいられる。それだけでいいじゃないか。うん。
言葉の力は絶大で、俺は文化祭が終わるまで会えなくても頑張れる。
会えるとかって、別にそんな気にする事でもないんだろうけど、やっぱり一方的に勝手に居座り始めた俺としては、来ない期間が出来たら悩むと思うから。
行って良いのかなって。
また来ても、近くに居ても良いのかなって。
でも、宇佐見が俺といる、というか俺がここに居座る事に嫌な思いをしてないとか、しかも「終わればまた会えるだろ」って笑ってくれた。
何言ってんだって、俺が居ることを当たり前のように。
宇佐見にとって俺は、そういう位置にちゃんと置いてくれてるんだって、嬉しいんだ。
勘違いでもいいさ。
今のこの、温かい気持ちがあれば。
その日もいつも通りに過ごして、帰り道に「文化祭楽しもうね」って言ったら、ほんの少しまた笑ってくれて「そうだな」って返してくれた。
俺はそれだけで天にも昇る気持ちになって、自分の部屋のベッドの上でゴロゴロ転がった。ニヤニヤしながら。マジで俺やばい重症。
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