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中編
3
 

 小野宮朔は一年の中期から学園高等部の生徒会長という立場で生徒をまとめていた。
 強気で何にも臆することなくただ前を向き、その見目の良さと言葉巧みな発言、人を惹き付けるカリスマ性が備わっていた。
 唯一、彼が持つ意外性は、家柄が一般より少しだけ裕福な程度で、庶民的な心持ちがあるという事である。
 裕福な家庭ばかりの子息が通う学園で、中流階級に加えて一年の中期から生徒会長というのは、史上初とも言える。
 彼は、高級な茶菓子ではなく、ひとつ十円ほどの駄菓子を好むような生徒で、手間の奥深さを知っていた。
 自身で何かを作ること。自らの力で何かをするという事、物の大切さを理解し、その楽しさを伝えてきた。
 それらが、学園にいる子息たちの興味と関心をよび、彼が発案したイベント事などは必ず成功するほど、たしかに彼にはその力があった。
 ゆえに、彼は生徒会長として認められ、人気を得たのである。
 人柄ひとつとっても、接しやすく話しやすく、決して歴代の生徒会長たちのように遠い存在ではなく、学園のいち生徒として、友人も多い。
 人望がある、ということこそ、彼の魅力を最大限生かすことに繋がっていたのである。
 彼は、自身が楽しいと思ったことを、他人を巻き込んでやり遂げる。ただ楽しみたい、という気持ちだけで、人を笑顔にする原動力にしたのである。


 しかし、一年前。
 高校二年生の中頃。
 その時、突然現れたたった一人の転入生によって、小野宮朔の魅力はその殆どが失われ、残ったのはただ生きている人形のような彼だけだった。
 友も、仲間も、何も関係ないとも言える彼を悪として処刑台へと立たせた。


 小野宮朔以外の生徒会役員に、風紀の副委員長含む半数、転入生のクラス担当教員など、生徒に人気がある有名な生徒ばかりが転入生に恋をしたのである。

 それは甘い青春などではなく、まさに奪い合いとも言えるものだった。
 嫉妬に狂い、盲目になり、ただ一人のためだけに我を忘れるような、愚かで浅ましい、清らかさなどの欠片もないものであった。
 いや、同性に恋をしたなどというものは、そもそも世間ではそれ自体がおかしく見えるのかもしれないが、ただ誰かに恋をする、という甘さがそこにはなかった。
 弱肉強食の理のような、酷く歪んだものにも思えた。




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