中編 無関心過ぎて呆気なく。 息を切らしたような呼吸音と、さっきまで俺を呼んでいた甘ったるい声が届く。 「…はぁ、っ宇佐見!春彦君来てない!?」 宇佐見? 俺の姓ではない名に、はたと目を瞬く。 準備室に入った時は必死で周りを見る余裕なんてなかったけど、まさか人が居たなんて。 ああ、終わったな。と思ったその時、抑揚のない声が耳に届いた。 「来てない」 「本当に!?嘘つかないでよ!?」 すげえ必死だな、と俺は自分を棚にあげた。 でも頭の中は、無関心さがあからさまに出ている声の主で埋まっていく。 低いけど、なんだか心地よい声だと。 「春彦って誰」 「…いや、えと、あんたに関係ないよ」 「あそ。俺しかいないけど」 「……あんたなにしてんの」 落ち着いたのか、興味がなさそうなくせに女子はそう聞いていて。 いないって分かったら早く出ていってほしい。 でも、無関心な男子生徒は律儀に答えた。 「解体」 「……」 解体?なんかを分解してるのか、こんなとこで。 それ以外に会話がなく、女子は引き気味な声で「行くわ」と言った。 「ドア閉めてって」 「わ、わかってるよ!」 ガラガラと音がして、静寂。 一息ついて、のそのそと隠れていた隅っこの台下から這い出て立ち上がると、扉から少し離れた木製の長テーブルに制服の背中が見えた。 入ってすぐなのに気付かないとか、どんだけ必死だったんだ俺は。 はあ、とため息をつき、男子生徒に近づく。 「……あの、」 「だれ」 礼を言わないと、と声をかけたら、振り返った生徒は無表情でそう言った。 キツくはない声だけど、抑揚なく無表情なせいで、なんかちょっと取っつきづらい。 「さっき女子が探してた、春彦だよ」 「へえ」 まるで興味ない、ってのがまる分かりな態度で、すぐに顔を戻された。 カチャカチャと音がして、気になって向かいに回ると手元には小さなラジオ、らしきもの。 分解されてるせいで分かりづらいけど、脇にあった外枠でラジオだと気付いた。 「宇佐見、だっけ。こんなとこでなんで分解してるの?」 「趣味」 「へえ…」 「……」 「……」 会 話 が 続 か な い ! すぐに出ていくのも気が引けて、それでもちょっと気まずくて。 なんとなく、本当になんとなく、向かいの木イスに座ってテーブルに肘をついて頬を乗せた。 チラと宇佐見は俺を目だけで見たけど、なにも言わなかった。本当に興味ないらしい。なんかショック。 そんな、俺と宇佐見の出会い。 [*←][→#] [戻る] |