中編
カメの恋敵。(?)
「てか、宇佐見ってそういうの着るんだな」
注文したピザを片手に、羽田が関心したように言い出した。
具材たっぷりな薄焼きピザは結構旨い。作ってんの誰だろー…じゃなくて、確かにそれは思ったよ俺も。
ピザを口に運びながら隣を見れば、かわいい兎が真っ直ぐ無表情で羽田を見てる。かわいいけど俺見てほしい。あ、いややっぱいい。抱き着きたくなるから。
「……、着ろって渡されたから」
「ぶっ!」
「羽田、汚い!」
「悪い。…つか、あんまそういうの気にしないんだな」
備え付けのウエットティッシュで口を拭う羽田は、今度は意外そうな目をした。忙しいねお前の顔。
抵抗感のない宇佐見グッジョブだけど、見られて良かったですけど、むしろそういうのに抵抗ないならもう色んなヤツ着せたいくらいですけど。
もうやだ宇佐見、俺の恋心を刺激しまくってる。普段見る表情と変わらないのにもう…もう……なんで、笑ってくんないの。
やっぱり宇佐見は無表情。こっち見てくれない。寂しい。誘惑はあるけど寂しい。
何だかんだ上がっていたテンションが次第に落ち着いていくのを感じた。
その時。
「裕弥ー、なにしてんの」
「……大森」
制服のワイシャツとスラックスだけの、身長が高いヤツが現れた。
宇佐見は無表情のまま、大森が居る俺の方に顔を向けて、「相席してる」と抑揚なく言った。
とりあえずこの状態が宇佐見の通常なんだとちょっと安心。
でも、なんか。
「堂々と相席すんなよ、着ぐるみメインなんだから」
「別に、教室内だし」
「置物か」
「動くけど」
「ほんと自由だよなーおまえ。てか羽田、ダンスやってんだよなー」
「おー」
カラカラ笑う大森に悪い印象はないけど、ていうか羽田知り合いなの?なんなのこの疎外感。
宇佐見を名前呼びとか。仲良いのがよくわかる。分かりたくないけど。
ダメだテンションがた落ちだ。
さっきまでの俺、カムバック。
「お、初めまして?亀山春彦くん。大森でーす」
「ぅえ、…あ、うん。初めまして…」
初めまして、なはずだけど、疑問符が気になる。ていうかなんで名前知ってるのこいつ。
おかげで名乗るタイミングが無くなった。
「遊び人とか、チャラいとかよく聞くんだよね」
「……へえ、」
だからって、ここで言わないでよ。最近遊んでないから肯定しないけど、事実だったから否定も出来ない。
宇佐見の方を向けない。
噂は結構流れてるから聞かなくても知ってるかもしれないけど、こういう場面で言われると気まずさしかないんだよね。
と、大森が俺から宇佐見に視線を移して、なぜか、笑った。
おかしなものを見るような、呆れたような、複雑な目だと思った。
「そんな顔すんなって」
「……」
そんな顔ってどんな。
気になって振り返ったけど、宇佐見はいつもの無表情だった。なんだこのイライラ。
いつもの無表情だとしか思えない。それでも大森は変化を感じ取ったのか。
俺と宇佐見の関わりの薄さを、ぶつけられたような気がした。
「……もうすぐ時間だし、行こっか」
「ん?あ、そうだな」
ここに居たくなくて、見せつけられてるみたいで、嫌だった。嫉妬と独占欲しかない今は、いつもみたいに出来ない。
ごちそうさま、と宇佐見と大森を見ずに投げ付けるように言って、受付でお金を払って教室を出た。
振り返りも、手を振ることもしなかった。
「……俺、ヤなヤツだね」
「お前はイイヤツだよ」
ダンス会場までの道すがら、羽田の優しさが痛かった。
二人に手を振った羽田だけが、二人の表情を知っている。
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