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中編
視線の先と心持ち。
 

 出迎えという形で始まったダンスは好評で、一気に視線を集めたらしく、終わって周りを見たら人、人、人だった。びっくりした。
 盛大な拍手を受けて、弾む息を整えながらも自然と笑顔が滲み出る。

 委員長の提案は、文化祭の呼び込みにも一役買ってくれたみたいで、通りすがりの人も招く結果になったらしい。良かった良かった。



 12時の開始までは一時間ちょい。
 それまでは好きにしていいので、ぞろぞろとクラスメイトが適当に纏まって校内に入っていくのを隅っこで見てたら、羽田がのっしりと肩に腕を回してきて前のめりになった。



「汗臭いんだけど!」
「いやお互い様だから」



 冬といえど、ダンスをすれば汗はかく。夏場ほど流れ出るわけじゃないけど、滲むくらいには体は熱を蓄えた。

 羽田から肩を組んでくるなんて珍しい、と思いながらも、なんとなく嫌な予感がして。



「行きづらい」
「どこに?」
「……宇佐ちゃんとこ」



 分かってるくせに聞いてくるあたり、やっぱり羽田は意地悪だ。


 宇佐見の所に行くって言ったのは俺だけど。
 絶対来いとか言われた訳じゃない。ていうか言わないと思う。
 でも、行きたい。会いたい。見るだけでもいい。俺は飢えてる。宇佐見に。…なんだそりゃ。



 でも実際、ほぼ毎日放課後に宇佐見と理科準備室で会って話をしてたから、物足りなさがピークなのだ。
 話せなくてもいいから、見るだけでもいいから、なんていう気持ちが大きくなっていって、同時に大森の存在を思い出して意気消沈するというエンドレスをここ数日やらかしてるけど。



「いーから、行くだけ行ってみればいいだろ」
「……うー…」



 半ば引き摺られるように、俺は羽田と密着したまま歩き出した。そろそろ離れてほしいです。



 校内では、各教室で展示の観覧や食べ物を売る為に呼び込みの声が飛び交って、色んな会話が混ざって、ざわざわと賑やかだ。
 楽しまなきゃ損だって羽田に言われて、いつまでも落ち込んでたらなって気持ちになってくる。


 無料配付されたお茶を飲みながら、教室を覗いたり呼び込まれたりして、いつの間にかモヤモヤが気にならなくなって、普通に楽しんで歩いた。



 気づいたら。



「お、ここだな」



 宇佐見の居るクラスの前にいた。
 手作りの看板には、ポップな文字で「着ぐるみ喫茶」と書かれている。


 …着ぐるみ喫茶?



「……え、着ぐるみ…?」



 思わず出た呟きに、羽田が笑う。
 着ぐるみって、あのイベントとかに居るようなヤツじゃないよね?あんな嵩張るというか予算内に絶対収まらないやつ借りたりとかしてないよね?顔見えないとかそんな感じなの?


 そんな疑問が顔に出てたのか、羽田が肩を叩いてきて、そっちに顔を向けると、ニヤニヤした羽田がいた。ちょっとこわいんですけど。



「着ぐるみってか、ドンキとかで売ってるやつだろ」
「……あぁ、」



 ディスカウントショップのバカデカイ有名な店を思い出して、納得した。あそこは確かに、女子に人気な着ぐるみウエアなんてもんがある。

 まあ、ほとんど女子なんだろうけど、と思いながら俺はふと、思い出した。



『───宇佐ちゃん表?』
『たぶん』


 

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あきゅろす。
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