中編
無自覚な初恋。
モヤモヤを抱えたまま迎えた、文化祭当日。
あれから何度か、宇佐見を見かけた。でもいつも宇佐見は同じやつと一緒に居て、やっぱり微かに笑ってた。
羽田が、どこから調べたのか、宇佐見といつも一緒に居る生徒の事を教えてくれた。いらないとか思ったけど聞いて覚えてる俺って。
宇佐見と一緒に居る男子生徒は、大森というらしい。なんか、結構親しくて、俺とカメみたいなもんだって羽田は言った。
いや、羽田が俺と結構親しい友人だって思ってくれてた事に対しては別に…嬉しかったですけど何か。
とにかく、大森とかいう男子生徒は、見た目はまあ、宇佐見より身長が高い。たぶん180くらいある。俺は175だし、宇佐見は俺よりちょっと高い。だからそれくらいあるはず。
少年の心があるような、スポーツやってそうな、顔はまあ格好いいんじゃねって感じ。
実際、バスケ部らしいし。
あんまりじっくり見たことはないけど、羽田の情報はそんな感じだった。
そんで、放課後以外は宇佐見とほとんど一緒に行動してるってのが一番ムカつきました。はい。
「───んじゃま、楽しもうぜ!」
制服しか見たことない委員長のダンス衣装は意外と似合ってる。そんな委員長の掛け声に、円陣組んで笑顔で応えるクラスメイト。
ダンスをする場所は体育館じゃなくて、正門と正面玄関の間にある開けた所。
普段は駐車とか駐輪とか、簡易的な場なんだけど、今はクラスの出し物会場だ。
外部からの客が受付を通る場所でもある。だから、真っ先に人目を引くのだ。
文化祭受付開始から終わりまで、計三回ダンスをする。
10時、12時、14時。その間の時間は好きに文化祭を楽しんで、客の出迎えと見送りをダンスで締める。いい案だと思う。
疎らに外部からの客が入って来て緊張気味になるクラスメイトに、委員長が声を掛けているのを見て。
喫茶店をやるっていう、宇佐見のクラスに行こうかどうか、俺は本気で悩んだ。
喫茶店ってだけで、どんな感じなのかは分からないけど、羽田は面白そうだと言ってた。行きたい。行きたいけど、気まずい。
俺が勝手に気まずく感じてるってのは分かってるけど、あれから俺は、宇佐見を見かけてもそばにいる大森に気をとられて、嫉妬しただけだった。
「……男の嫉妬は醜いね、羽田くんや」
「なんだ急に。乙男が」
「うっさいよ」
羽田には、俺が宇佐見を本気で好きだって伝えた。相談役には持って来いなんだもん。
引かれるかと思ったのに、羽田は笑って「頑張れよ」って言った。「初恋成就の御守り作ろうか」とかも言われた。
そこで気づいた。
俺初恋なんだって、今さら。
散々色んな女と色んなことしてきて、恋という感情を初めて抱いた事に、本当に今さら気づいたんだ。
最近女と遊ぶこともなくなったのにも、その時気づいた。
「片想いで不安になるのに、男女に差はないからな」
「羽田が格好いい事言ってる…」
「……フラれてしまえ」
「ひっどい!」
フラれてしまえ、とか本当に酷い。
でもちょっと元気出た。
今はとにかく、楽しむんだ。
委員長の呼び掛けに、ダンスに意識を持ち変えて、俺は笑うことにした。
クラスの出し物とか、空き時間にも宇佐見がこっちを見に来なくても。
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