中編
11
暫く歩くと外灯が増えて、商店街が近いことを知る。
当然殆どの店は閉まっていたが、飲み屋が数件開いていてちらほら人も歩いていた。時間はまだ8時前だから酒を飲む人にとって遅くはない。
それに夏休みともあれば、若者だって夜道を出歩く。
住宅もあるし、宿所から離れてはいるが賑わいも明かりも夜の中で輝いている。
懐中電灯を消して商店街を歩くと、楽しそうな笑い声や高校生、大学生くらいの若者集団がはしゃいでいる姿を見つけた。
彼らなりの派手な服装で、けれども蛍光色な頭の人はいない。複数のバイクが背後の道路を通る音が聞こえる。
商店街の先の暗さを確認した時、通り過ぎ様の居酒屋の賑やかさに目を向けると、豪快に開いた扉の向こうで見覚えのある日焼けしたツナギ姿の男性が笑っていた。
日中に見た姿のままだったからすぐに分かったんだろうな、とトモダチらしい数人と談笑する様を流し見て視線を前に戻した。
きっと自分も、地元のトモダチと一緒にいる時はあんな風に談笑しているように見えるんだろうなと思いながら、商店街を抜けて外灯が減った辺りで再び懐中電灯を点ける。
やはり夜は涼しく、パーカーの袖を伸ばして手を隠した。
石畳を踏み足下を照らしながら進むと、周りは一層暗闇の濃さを増していく。
林を抜け、明かりを頼りに日中よりも湖から離れて立ち止まった。
あの綺麗な緑や青は暗闇に飲まれて見えなかったが、空気は変わらず涼しく澄んでいるようだった。
明かりを点けたまま平地に腰を下ろす。
「……飲み込まれそう」
木々の大きな隙間から月の明かりが湖を照らした。
それでも暗闇は主張が強くて、すべてがそこに包まれて消えてしまいそうだった。
───15歳の時に好きになってしまったトモダチは、大学でもトモダチのままでいる。
高校二年で好きな人が出来た彼は、よく一緒に集まっていた周囲に相談しながら一心に恋をしている顔で、俺にも何度か相談を持ち掛けた。
俺は、彼が相手に恋をする前から相手が彼を意識している事を知っていた。
初めての恋だった彼らに、お互いが俺に相談しているとは気付かれないようにアドバイスをしては応援の言葉を添えて笑う。
彼らの恋が実を結んだのは、高校三年に上がる前の冬休みだった。彼らは今でも恋人で、毎日楽しそうに笑っている。
俺はそこで失恋したはずなのに、隠し続けていた思いは硬直したまま割れることはなくて、今もきっと好きなのに好きでいる事が怖くてずっと目をそらしている。
このまま消えて無くなれば良いと願いながらも、トモダチとして親しく思っているであろう彼との関わりが、毎回それを消すまいと心を刺してきた。
叶わないと分かっていながら、感覚が麻痺した恋心はそのままで、まるで縛り付けられているような被害妄想が意識に食らい付いた。
知られてはいけない。
普通に、普通にしていればいい。彼以外のトモダチと接しているのと同じように。
恋愛の話を振られても曖昧に返して話題を変えてしまえ。理想のタイプを聞かれても「好きになったらタイプだよ」と笑えば良い。
異性に告白されたって、トモダチとしてしか見られないと言うしかない。お試しだろうが仮だろうが、好きになれないのだから傷付けるだけ。
このまま恋心に絡み付いた紐は量を増やして、心すら見えなくなってしまいそうだった。新しい恋だなんて、結局今のままでは無意味だと諦めている。
毒は体内からも生まれた。
息苦しくて、吐き出したら周りの酸素を汚してしまいそうで、ここでもまた呼吸のやり方を忘れそうになる。
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