中編 理科準備室で密会 恋なんて面倒な、って思ってた。だけど、気付いたら近くにいて気付いたら話していて、気付いたら、好きになってた。 いつもの放課後、いつもの場所。校庭から聞こえる部活動の野太い声を聞き流しながら、目の前で小さく鳴る音を拾う。 これといって会話はない。でも不思議と息苦しくなくて、むしろ絶え間なく会話してる教室よりも居心地がよかったりして。 理科準備室という名の半分倉庫みたいな空間で、木製のテーブルとイスに向かい合って座る、気付いたら定位置になっているそこ。 テーブルに肘をついて両手で頬杖。視界には、少しクセのある黒髪の同級生が慣れたように何かを分解している。 細くて長い指。小さなドライバーを器用に操り、今まで色んなモノを分解したり組み立てたりしているのを見てきた。 ラジオだったり、古い携帯だったり、大きいモノだとノートパソコンだったり、なんかよく分からないものだったり。 見てきたっていっても、半年くらいだけど。 「宇佐ちゃんってさあ、技術師目指してたりすんのー?」 なんとなく聞いてみた。 すると宇佐ちゃんは手を止めずに口を開く。 「いや、別に」 淡泊な答えは慣れたもの。返事してくれるだけで充分だ。 その嬉しさを隠すことなく笑みが浮かんだ。 「そんな色々やってんのに?」 「ただの趣味」 「趣味がハイスペックすぎる!」 「へえ」 「言葉のキャッチボール!」 「会話なんてそんなもんだ」 「コントロール悪っ」 「お前に言われたくない」 「どこが!?」 「変化球」 「一方的ってこと!?」 「剛球?」 「なお悪いよねー。てか全力で一方的って思われてる?」 「さあ」 テンポよく交わされる会話に頬の緩みを抑え込めなくなって。追撃とばかりに、顔をあげてニヤリと口端を上げたその笑みに、ヤられた。 分解を再開した目の前の可愛いヤツのせいで、燃えるように顔が熱くなって。 片手で口許を押さえて俯いた。 ちくしょうかわいい…っ! 放課後、理科準備室。 部活動でも同好会でもない、たった一人の生徒による、趣味の時間。 俺はこの時間がとても好き。 何にも邪魔されないこの短い時間が、何よりも癒し。 ────────────────── 宇佐見 裕弥(ウサミ ユウヤ) 17歳 帰宅部だけど理科準備室を借りて何かやってる。基本無愛想でマイペース。 亀山 春彦(カメヤマ ハルヒコ) 17歳 帰宅部。軽々しくて楽観主義のくせに色々悩む。間延びした喋りなのに何かとさくさく進めたいタイプ。 [→#] [戻る] |