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中編
3
 

 生徒会長だった頃の夢を見た、と委員長に言うと、奴は真面目な顔でただ俺を見た。
 未練があるのだろうか。
 そう言うと奴は笑って、過去の整理だと言い切った。なんの根拠があるのかは知らないけれど自信満々だったから、そんなものかと思い至る。


 委員長は紅茶を飲みながら、思い出したように言った。



「お前最近、槙野新とよく一緒にいるんだってな」
「ああ、居るけど」



 誰かに言った覚えはないが、誰かが見て情報を得たのかもしれない。風紀の、いや委員長の情報網は広い。
 奴は俺を見て笑うと、今更だが、と思わせ振りに言葉を途切れさせては紅茶を飲む。



「槙野はうちの幽霊役員だったんだよ」
「幽霊役員?」
「在籍名簿に名前が乗らない、隠れた風紀委員っていうのか」



 そんなものがあったのか、と初めて聞いたそれに頷くと、委員長は俺を見ながらも柔らかい笑みを浮かべたまま続ける。



「今はもう終わったことだが、季節外れの転入生について回る噂と事実を調べてくれる奴を探してたんだ。その時あいつが快く引き受けてくれてな。何か別の理由があったみたいだが、聞いてもうまく流された」
「…そうか」



 随時報告を条件に風紀の特権を得た槙野は、転入生の側に居るために授業免除を委員長に申請した。委員長は理事長に事情を話していたため、双方の間だけで交わされていた一時的なもの。
 名簿に名前が乗らないのは、仮の風紀委員として手を貸すだけだったからという。

 けれど槙野は転入生だけではなく、他の周りにいた役員や生徒の行動も必要な部分だけを抜き出して伝えていた。

 転入生の側で、事実を目で見て委員長に報告する。それは風紀ではないただのいち生徒であり、ひとりで居ることが多い槙野だから出来たことなのだと言う。

 もし公認の風紀委員になり名前が名簿に加われば必ず知れ渡る。風紀の関係者がいると分かれば、周りにいた生徒たちはどうにかして槙野を引き剥がすだろう。
 委員長はそれを分かっていて、風紀委員ではない生徒で協力者を探していた。

 協力したいと名乗り出る生徒なら沢山いそうだが、必ずしも漏洩しないとは限らない。生徒には生徒の付き合いがあるし、友もいる。噂とは大概当人ではなくその周りから尾鰭を付けて広がっていくものだ。

 一番重要視したのは、転入生が気に入らずに側に居られない場合もあるということ。
 だからこそ、孤立状態で周りから距離を置かれ、尚且つ転入生が気に入って引っ付いていた槙野がそれを承知で委員長に名乗り出たという。
 槙野の別の目的は分からないが、あの無関心さの理由は理解した。


 槙野にはもう風紀役員の権利はないが、委員長は時折朝早く呼び出しては見回り兼、現在の転入生の状況を聞いているらしい。
 たまにある朝の呼び出しはそれか、と納得した。

 転入生と槙野は同じクラスだが、今は殆ど会話もしていないらしい。転入生はつねに独りで行動し、それを狙った生徒が何かアクションを起こすのを風紀は危惧している。
 問題児でも一応は学園生徒である。
 学園の風紀を守る立場からすれば、転入生も保護の対象になる。



「まあ、何かと様子は見ているが、今はもう他の生徒たちは転入生を空気扱いしてるから問題はないんだけどな」



 居ないのと同じ。
 今まで人に囲まれ、何かしら誰かと関わりがあった環境が急に変わってしまうのは、きっと酷く違和感があるだろう。
 だが、それが自分の言動の結果であることを身をもって知ったからこそ転入生は孤立を続けている。



「それよりお前が誰かと一緒に長時間過ごすなんて、槙野はお前にとって良い影響でもあるのか?」



 大方、槙野本人から聞いたのだろう。
 どんな思いがあって槙野が俺と居ることを当たり前のように受容しているのかは分からないが、俺にとっては久しい気持ちをよく思い出させてくれる存在にはなっている。
 居心地は悪くない、と答えると、委員長は「そりゃ良かったよ」と満足そうに頷いた。

 最近の槙野もそうだが、委員長も大概世話焼きだ。


 


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