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中編
5
 

 手元を覗き込んでいると、槙野が不機嫌そうに「なんだよ」と言った。
 料理をするのか、という問いに槙野は投げやりな声で、嫌いじゃないからとだけ返して調理台に様々な野菜を乗せていく。
 冷蔵庫からはパック詰めの切身魚を取り出していて、その光景に僅かな懐かしさを抱く。



「お前はしなさそうだよな、料理」



 材利をあらかた出し終えたのか、台に手をついて槙野は言う。



「いや、今は時間があるからよくする」
「へえ」



 忙しい時は疲れてすぐに寝てしまうことが多くて、それに作る暇もなかった。
 元々この学園に来た当初も、豪華な学食が口に合わなくて自炊していたのだ。なにしろ金持ちの通う学園だから学食もそれなりに高級なものを使う。
 フレンチだかコース料理だか、本格的なシェフを抱えて営む学食は正直好きではない。
 昔ながらの食堂メニューはあるにはあるが、あれも名前や見た目だけで中身は庶民が口にするような素朴なものではない。
 なんのこだわりなのか疑問したくらいだ。
 おかげで、それなりだった料理の腕が上達したと、長期休業の際に実家に帰った時に親に褒められた。

 最近よく料理をする、と言った後、槙野は少し考える素振りを見せてから言った。



「じゃ、手伝え」
「いいけど」



 決まりな、と満足そうに笑った槙野は、普段の不機嫌さもなく年相応に子供っぽく見えた。
 上着を脱いでソファに投げると「雑だな」と言われたが聞き流した。
 袖を捲りキッチンへ入る。
 手を洗いながら何を作るのか聞くと、槙野は一言「鍋」と言った。



「あんたも雑」
「鍋は雑じゃねぇよ」



 鍋をナメんな、と言われたが槙野は鍋が好きなのだろうか。
 見れば土鍋も大きなもので安価のものではないように思う。

 野菜を切りながら、ただ切って煮るだけではあるものの誰かとこうしてキッチンに立つのは随分久しい。
 まだ生徒会に入ったばかりで親交を深めようと集まって、数回一緒に食事をした時くらいだろうか。



「あ、シメは雑炊な」
「やっぱり雑」
「字だけだろうが」



 屈託なく笑う槙野は、楽しそうに見えた。

 楽しいのだろうか、俺も。
 槙野と出会ってから、よく喋る。というか槙野と居るときだけか。
 たった一年前のことなのに、あれから殆ど声を出さなくなった自分が不思議に思えた。



「敷くものあるのか」
「そっちの、棚の二段目」
「わかった」



 見なくなった雑誌かと思えば、ちゃんとしたものだった。
 しかも土鍋と柄が共通している。
 もしかしたら鍋奉行か、と槙野に対して少し意外な予想を立てた。


 実際は鍋奉行ではなく、殆ど適当ではあったけれど、誰かと鍋をつつくというのは庶民的と言われている俺からしたら懐かしさを感じる。
 槙野といると懐かしいと思うことが多い。
 家は金持ちだというのに、槙野が庶民的であるというのも理由なのだろうか。


 


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