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中編
2
 

 ───結局、恋は盲目だと思い知らされたのだけれど。
 盲目にも程があると思う。
 でも、一時的なものだとも確かにあの時思っていた。落ち着けばまたもとに戻れる。要領よくやってくれるのだと、信じて疑わなかった。
 いつか戻ってきて、説教なんかして、また笑ってふざけながら生徒会として過ごせるようにと、仕事は一人で片付けた。

 けれど結局、生徒会は壊れてしまった。生徒会だけではなく色んな委員会にも支障は出たけれど、最も酷いと言われたのが生徒会だった。

 生徒会長を新たに立てることなく、不在のまま辛うじて機能しているという今の生徒会は、とても脆い存在だと、風紀委員長は時々俺に申し訳なさそうな目を向ける。内容は愚痴でも、その目にはいつも気遣いが伺えた。
 お前は気にするなと。もう関係ないのだからと。
 あいつはお節介だ。愚痴男のくせに。

 それでも、風紀委員長はあの時からずっと俺を気遣い続ける。渦中で俺が風紀室に行くといつも、忙しいのに愚痴とお茶に付き合わされたのを思い出す。
 悪くない関係ではあった。役員たちは風紀を毛嫌いしていたが、俺と委員長は好敵手でもなければ啀み合う存在でもない、ただの同志だった。
 今では生徒会の監視を名目に、仕事は増えたがおもしろいものが見れると生徒会室に行っているようだが、あれはただのサボりだ。



 ……いま、俺は、生徒会長だった頃のようには過ごせない。
 あの時、数人の支えがあっても、結局最後は壊れてしまった。見失ってしまったのだ。意味を意義を、何のために、動いているのだろうかと。


 笑ってほしかった。
 一緒に楽しんでほしかった。
 けれどいつしか俺は生徒会室という檻の中から出られなくなって、転入生に敵意の目を刃を向ける生徒たちを見たくなくて、笑顔を張り付けてしまうようになった。

 俺の前で、その牙を爪を見せないでほしいという、ただの勝手な欲だった。

 破壊した道具の中には俺も含まれていた。俺も壊したのだ。好きだったものを守れなかった。

 なら、何のために続ける?
 直そうと動く意思の前にはいつも、大量の仕事が壁を作っていくだけで、いくら今までより早く全力で処理をしたって、次から次へと何かが起きては処理をして、ただのいたちごっこにしかならない。

 なら、何のために動く?
 失わないために出来たことは、リコール回避のための仕事処理が精一杯で、役員の説得に費やす時間すら惜しかった。
 基盤が無くなってしまったら説得など意味がなくなってしまう。結局、後回しにして仕事に没頭し、騒がしさだけを連れてきては仕事の事など頭から消えている役員たちや、気にもとめない転入生の声を聞き流して一人で奔走していた。


 転入生の関係で仕事が増えて忙しいはずの風紀委員長は、時おり生徒会室に現れては、軽食と愚痴を置いていく。
 あの男は本当に愚痴しか言わないから、呆れなどもあるが息抜きにもなった。
 そんな支えも、争奪戦が熱を増していくほど薄れていった。忙しさに他所に目を向けることが出来なくなったのは仕方ないことだ。


 だから、節目をつけた。
 文化祭という大イベントが終われば、卒業式まで余裕が出来ると思った。
 9月にある文化祭から卒業式までの間には、中期休業とテストくらいしかない。その間にある仕事といえば卒業式や送別会のことくらいで、引き継ぎは3年になっても生徒会の役員を継続させる決定が既にあったため、事実上、卒業に関するものしかない。
 その卒業式や送別会についての仕事まで終わらせてしまえば、あとはゆっくり休む時間が取れる。
 風紀委員長には悪いが、転入生がやらかす殆どが風紀に関するものだから生徒会にはあまり関係ない。
 だから、それまでは。
 先に先にと片付けてしまえば、そのぶん休みが長くなる。
 インドアもいいが、またには外でのんびりしよう。そういうささやかな計画を立てて、脇目も振らずに打ち込んだ。

 そして文化祭の終了挨拶が終わる、その台詞と同時に、気が抜けて意識も飛んだ。


 

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あきゅろす。
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