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中編
無意識な拠り所。‐1
 


 しばらく槙野との短い交流が続いていたある日の放課後、突然見覚えのない生徒に囲まれ、無理矢理連行された。
 そこは校舎から離れた寮との間にある林のそばで、人気がない。
 広い敷地のせいで、無駄な場所が多く存在するこの学園は、伴って死角も多くある。
 だからこそ、こういう強制連行や呼び出しなど、見られたくないことは大体このあたりで行われる事をよく覚えている。
 以前、風紀委員長がいくつかピックアップして事件発生率の高い場所だと警戒していた。


 そんなことを考えているときも、なにかよく分からないことを言っている数人が、見知らぬ顔だったために一年だと認識した。
 去年まで生徒会長だった為に、高等部の全生徒の顔と名前を覚えていたし、こんなことをする奴はいなかった。
 楽ではあったが、特に親衛隊の彼らには世話をかけたなと思う。
 つらつらと耽っていると、彼らの言葉の中に最近昼休みにだけ会う知った名前が上がったことで、大体の理由を理解した。



 仲良くしているつもりは互いにないだろう。昼休みに同じ場所でただぼうっとしているだけなのだから。
 けれど、他人からしたらそうは見えないだろう。こんな狭い世界の中では、いろいろな憶測がつきまとう。
 四、五人が囲む中心にただ立ち、視線だけで表情を認識する。
 見下した目。弱者を見る目。
 なぜお前が、こんなナヨナヨしているやつが、こんなやつにあの人は。


 ああ、きもちわるい。




 ──────。





 一時間もしないころ、槙野は息を切らして現れ、そして吃驚したうえ固まった。



「……なん、だ、これ」



 そんなに意外だっただろうか。
 俺だけが立っていることが。足元に踞る生徒は、唸り声さえも上がらない。気絶しているんだろう。

 槙野はゆっくりと近付いてきて、俺の全身を流し見てから、目を合わせてきた。



「お前が、一人で…?」
「意外なほど、あんたからしたらこれは強いやつらだったのか?」



 動かない生徒たちを放置して歩き出すと、槙野は慌てて付いてきた。
 そこまで驚くのか。というかお前も放置するんだな。

 驚くことはない。俺はただ、久しく感じた不快を潰した。それだけなのに。



「おい…おい!お前あれ、どうやって、」
「あんたがいつもやってること」
「…喧嘩出来るのかよ」
「不快を消しただけ。喧嘩じゃない」



 あれは喧嘩ですらない。
 喧嘩は両方の争いだ。言い争い、暴力の攻防。
 俺は、言い争いも攻防もしてない。ただ、振り払っただけ。汚れを振り落とすのと同じ。だけど、それは俺だけが思っている、他人からしたら屁理屈になるものだ。
 喧嘩、という流れにはならなかっただけだ。全てが一方的だったのだから。


 なにが気に入らないのか、槙野はしかめ面のまま黙っている。
 ゆっくり歩くその隣から視線を寄越されているが、特に不快ではないので無視した。



「……そのナリでよく五人やったな」



 しばらく黙っていた槙野は、ぽつりと溢すように言った。
 そのナリ、か。
 今は食事も最低限で運動もしてないし、もちろん体力は落ちている。昔のようには動けないくらいには。



「無駄な動きをしてないだけ」
「それでもタイマンじゃねぇだろ」
「そうだな。というか、あんたのことで何か色々言われた」
「……悪い。巻き込んだ」
「巻き込まれたわけではないよ」



 あれは、親衛隊特有のものだから、巻き込んだとかそういう類いの話ではない。
 ああいう行動を取る生徒は、親衛隊に入っていないのが多い。いまの親衛隊はちゃんと統制されているし、今更馬鹿なことをしようとは考えないだろう。
 やるのは、あれを知らない一年ばかりだ。



「気にするなら、ちゃんと躾しといて」
「……躾って…」



 慕う奴らを躾出来るのは、慕われる奴だけだ。
 槙野もそれをよく知っている。
 苦々しい顔をした槙野を振り返り、口を開く。



「あと、」
「あ…?」



 視界が歪む。
 やっぱり体力が落ちすぎているらしい。
 ふわりと頭の中が白くなっていって、槙野の焦ったような声を聞いた。



「───俺の部屋まで、連れてって」
「おい、小野宮…!」



 暗くなっていく視界の中で、初めて名前を呼ばれたような気がした。



 

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