[携帯モード] [URL送信]

中編
08
 

 結論から言えば、電話は鳴らなかった。二時間弱の映画をじっくり観る事が出来たわけである。どんだけ暇なんだ。
 客が入ってくる事はあっても帰ることもなく、ルームサービスの要求もなかった。



「はー、なんだかんだ5時だね」
「うん」



 夏が近いのもあって、外はもう明るい。
 これから9時までは宿泊客が帰っていく時間だ。なんせ平日の木曜日なのだから。
 みなさんお仕事前に一時帰宅かな、と毎回思う。平日休みか直行か一時帰宅。サラリーマン風の客が来ると、いつも思うけど早朝から忙しいな。


 清掃中にしてある客室は、テレビで客室情報が見れる。
 どこの部屋は何時間何分、どこの部屋は清算中。



「二階2部屋帰る」
「ね」



 ソファで寛ぎながら、清算中となっている客室を眺める。
 それから清算が終わって扉を開けた合図は、おかしな音楽が流れるのですぐ分かるのだ。


 そして6時からはモーニングサービスが開始されるため、宿泊客の半分は頼む。入室した後すぐにサービスを予約する部屋は良いんだけど、いきなり来ると「このやろう」ってなる時もある。満室からの連続退室とか。


 けども今日は空きがあるから余裕だ。



 ゴミとシーツや風呂掃除、不足しているアメニティを玄関先に置いといて、モーニングサービスに取り掛かる。
 何事も(いくら暇でも)効率よくやっていくクセがついてるのもあるけど。



「30分刻みのモーニング4か。めんどくさ」
「掃除はすぐ終わる」
「翔くんと一緒だからねえ」
「由貴と一緒だからねえ」



 棒読みが逆に良いよ翔君や。

 モーニングなんてのは、二人でやると三分くらいで終わる。なんて早いのか。
 洋食も和食も三分。なんてこったね。
 最近の日本人は洋食ばっかりで、和食を食えよ日本人、なんて翔君と言いながらサクサク終わらせた。


 掃除も済ませてモーニングも届け終わり、8時前になるとまたどこかが帰る、という具合に、9時の30分前には在室3つ。たぶん9時前には帰らないだろう。


 その時間になると、早番のパートさんたちが続々と出勤してくる。

 従業員出入り口の開閉音が聞こえると、俺はちょっとワクワクする。
 それはなぜか。



「おはよ、う…またやったの」
「おはようございます」
「おはようございまーす。どう、可愛くね?」
「……うん、可愛いけど」



 一番古株であるパートの白石さんが、苦笑いしながらそう言った。
 大抵は苦笑いとか驚きとかが多い。俺の気分だから仕方ないよね、翔君のヘアスタイルは。
 嫌がらずにそのままにしてる翔君もまた可愛いんだけど。



 白石さんとフロントに入りながら伝えるべき事を言っていると、従業員出入り口からの開閉音と次いで驚く声を聞く。
 上がり時間になると翔君はゴムを取ってまたひとつ結びに戻るから、それまでのちょっとしたイベントである。


 嫌われちゃうよ、なんて言う人もいるけど、それはない。
 めんどうじゃなく似合っていれば良いんじゃない、と本人に許可を貰っているからである。毎日じゃないからね。



 そうして、暇な一日の仕事を終えて、翔君と途中まで自転車で帰った。
 あとは風呂入って寝るだけだ。
 おつかれさまー。


 

[*←][→#]

9/42ページ

[戻る]


[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!