中編
◇攻めるタイプなので。
『……好きでした。中学の三年間、俺はあなたがずっと好きでした。…っでも、あの時とは違う深さで、あなたが好きです』
めまいがした。
嘘だ、とは思わなかった。
あの頃───中学時代の俺が彼を視界に捉える時、いつも一度目があってからすぐに目を外されていたことをよく覚えていたからだ。
当時は不思議で、そこから気になってはいたものの特に親しくなることはなく。
というか、その一度合った目を反らされるという事が少なからず好きだったのだ。
慌てて反らしたり、気づかれてないと思っているように素知らぬ顔をしていたり、時々はにかんだ顔が見れた時は、なぜかこっちが照れたりした。
今思えばあれは、ある種のアイコンタクトにも似ていた、交わることのない意思の投げ合いだったのかもしれない。
……まあ、自分勝手な考えでしかないが。
けれどもたった今聞いた言葉で、その自分勝手な考えが強ち間違いではなかったのではないかと思った。
そして急激に襲い迫る欲望が、理性を押し退けようとして、つい「場所を変えたい」などと口走ってしまったわけだ。
「……いや、すまん。イイ歳こいて言うのもあれだが、なんというか…、」
「はあ、」
緩みそうになる口元を手で隠し、横目で須藤を見やる。そこには、何とも形容し難い感情を抱かせる呆けた顔をした彼がいて。
一か八か、賭けてみる事にした。
「……そっちも明後日まで休みか?」
「ええ、まあ…」
「……」
「……あの…倉科さん?」
やめてくれ。覗き込むとか何の嫌がらせだ。わざとやっているのか。
いやそんなわけないだろう。
そんな複雑なようで単純な気持ちが渦巻いて、じっとその目を見つめてしまう。
が、何故か須藤は覗き込んできたくせに、突然我にかえったように目を反らして、ついでに顔を赤らめた。
うん。駄目だなこりゃあ。
「はー…お前、ほんと…」
「え、いや、え?…す、すみません」
「可愛すぎる…」
「……はい? どうしたんですか倉科さん、酷い風邪でも引いてます?」
「凄い言い様だな」
「…すみません」
おとなしいイメージに加えてあまり会話をしたことがないのもあってか、意外に辛辣な須藤の言葉になんだか可笑しくなって笑ってしまった。
申し訳なさそうではあるが、須藤も笑みを浮かべていて、幾分かでも緊張は緩んだように見える。
ので。
「よし、場所移動だ」
「へ?」
言いながら席を立つと、驚きを隠せずに呆ける須藤の気の抜けた声に笑う。
いいから、と伝票を持ってレジへ向かうと慌てて立ち上がり、小走りについてくる。
そこで少し、支払いでひと悶着あったが、押しきって(無視して)カードで済ませてしまった。
分かりやすくむくれながらも、きちんと礼を述べる彼に、可愛いという思いが増していく。
自覚をする事で顕著になったらしい。
パーキングに停めてある車に乗り込み、行き先を告げずに走らせると、やはり横からどこへ行くのかという疑問が視線で分かる。
教えないのは、悪い男だろうか。
なんだか、行き先を告げずホテルへ連れ込むような感覚になってしまって、その罪悪感に耐えられなかった。
「連休中に観ようかと思って借りてたDVDがあるんだが、ついでにどうかなと」
「え?それって、」
「うん、俺ん家。つってもマンションだけど」
「えええ!?」
やはり、な反応が返ってきた。
ちらと横を見ると、まあ、挙動不審だ。
おかしくて笑うと須藤はそれに気づいて、咳払いを二、三すると、深呼吸にも取れる息の吐き方をした。
「…いいんですか、行っても」
「じゃなきゃ誘わない」
「……ですよね」
「どうする?嫌なら別のとこふらつくけど」
「い、嫌じゃない、です」
「んじゃ決まり。コンビニ寄って何か買おう」
「……はい」
正直、心中喝采である。
一応言っておくが借りたDVDの話は事実だ。家に誘いたいがための嘘ではない。
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