中編
◇それじゃあ、遠慮なく。
言ってしまった。
悩みに悩んで出たのは、再会してからたまに思っていた事だった。そりゃあ呆然とするわな。
小さく口を開いたまま固まる須藤を見る。いきなり過ぎて理解が追い付かないのも分かる。男で、しかも中学の同期で仕事の取引先。驚かないほうがヘンだ。
しかし次の瞬間、俺は考えを改めさせられた。
固まっているものの、目が挙動不審になり、顔はみるみるうちに赤みが増していき、口は魚のように開閉を繰返し始めたのである。
これは、この反応は。
ドン引きされるか色々聞かれるかとか反応を考えてはいたが、まさかの反応。
そこで何故か俺は本来の性質に火がついたらしい。
たぶん自力で止められないレベル。
「顔が赤いな」
「っ!!」
「悪い、急に気持ち悪いよな、」
「い、いや、あの…その、びっくり、して…」
慌てて顔を上げた須藤は、目は合わせてくれないものの嫌がってるようには見えない。
その姿に、俺の緊張とイロイロがさらに高まる。
「だよな。俺もびっくりした」
「え?」
「須藤の反応がさ」
「あ…っ、う、えぇっと、これはその…」
「うん、よかった」
「……へ?」
やっと合わさった目は、きょとんとしていて思わず抱き締めたくなったが全力で我慢した。やばい。頑張れ俺。
にこり、とも、にやり、とも取れる笑みを浮かべると、須藤の顔面は林檎のように(紅玉レベルで)真っ赤に染まっていく。
まさに高揚。これはもしかして、と期待が膨らんでいって、ストッパーのない状況で俺は軽く身を乗り出した。
びくりと肩が揺れたものの、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まる須藤は、もう目をそらしたりはしない。
「それじゃあ、遠慮も容赦もなしで、落としていいよな?」
「〜〜っく、倉科さん!? な、なに言って…っ」
本人に宣言する俺は随分意地悪いが、たぶん須藤はこうでもしないと、そういう意識を持ってくれないと思った。
案の定、言葉の意味は理解したようで須藤は全身発熱しているみたいに真っ赤で挙動不審。ついでに上擦った声がまたツボなんだけど。
「仕事は仕事だから大丈夫。でも俺、肉食だからプライベートは覚悟しといてな」
「あ、えぇ!? いや、ちょ、ま、待ってくださいっ」
ばっと出された制止の手を掴みたくなったが、とりあえず抑制。
座り直して頬杖をつき、小さく溜め息を吐き出してみた。
「…ああ、やっぱ同性はムリか」
「あ、う、えと、いやちがくて、急すぎて意味が分からないというか…っ」
「えー、分かれよ」
「いやいや、えーって…だって…ていうか倉科さんってそっちの人…」
「いや違うけど。男が好きなんじゃなくて、お前が好きなんだよ。だから落とす」
「───……」
矢継ぎ早な会話だったが、決定的な発言に須藤からの返事はなく。
ただ目を見開き、出していた手がぱたりとテーブルに落ちる。
目は合っているが、たぶん認識してないんじゃないだろうか。
しばらくその姿を眺めていると、須藤は我にかえったように瞬きを繰返しながら俺を見た。
「……いま、なんて」
溢れたのは、息のように小さい声。
少し笑ってしまったが、テーブルに落ちたままの手を、気持ちが抑えきれずに取ると、ぴくりと反応はしたが抵抗はなかった。
細い見た目よりやわらかな指先を弄りながら、徐々に指を絡めていく。手に力が入っていくのが分かる。
「俺、あんまり話したことないけど、中学の時から須藤のこと気になってた」
「…っ!!」
そう言った瞬間、須藤の目は混乱ではなく、初めて動揺を見せた。
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