中編
◇恋と呼ぶには早すぎる。
───中学の同窓会ハガキが来たか、参加するかどうかメールでも送れば?
そう言って笑った佐東は、本当に他人事だと思って軽々しく俺の肩を叩いたのが、つい数時間前。
高校の同窓会ハガキも来たと、ハガキが来た翌日に喫煙室で顔を合わせてすぐ佐東が笑っていた。
そして昼休み、俺は会社近くの喫茶店にいた。とにかく悩んでいるのだ。
開催場所は近いが、中学の同期はほとんど同じ高校に進学しているし、どちらに行くか、というのは皆同じ悩み事らしい。何通か似たようなメールが来ている。
だが俺には、中学の同窓会に出席して彼と顔を合わせても須藤と会話する話題がないに等しい。あるとすれば仕事のことだけだろう。
というか、一時期でも仕事で顔を合わせていて一応連絡先も知っていて、共通の話題がない中学の同窓会に出てどうするのか。
三坂に会いに行く事は考えているが顔を出すだけで良いだろうし、あいつが本来会いたい人は別にいる。
親友、とは言うが、連絡先も分からないと疎遠になるのも分からなくない。
引っ越しした後に携帯を壊してしまったとか連絡先が消えてしまったとか、色々あるんだろうが。
「……はぁ」
溜め息を吐いた後に、溜め息だったことに気付く。
無意識とは困り者だ。
とにかく当日は、中学の方に顔を出してから高校の同窓会に行くか。
人伝に三坂の連絡先は知っているし、別に積る話があるわけでもない。違う高校に行った何人かに会って懐かしむくらいだ。
そもそも出席するかどうか須藤に聞いたところで、それがどうしたのかと問われたら何も返せない。
そうと決まると、今までのモヤモヤが幾分かすっきりしたように思える。
同じ悩みを抱えてる友人にメールを返しておくかと、受信メール画面を開いた。
自分の中でこれを蘇った片想いとするには、まだ早いような気がした。
燻っているだけで、まだ火は見えない。
それを望んでいるのかどうかすら俺には分からないが、もしそれが分かったらその燻りから確かな色を見る。
過去とは違う、はっきりした形を持って、再び、というよりは初めて自覚した片想いとして。
だけどそれは、本当に見て良いものなのだろうか。
自覚してしまって良いものなのだろうか。
同姓に恋をするという事の重さを、俺は知らないのだ。
もっと関わりを持っていれば、何か変わっていただろうか、という気持ちが過る。
俺が彼をこんなにも意識する理由がどこにあるのか、まずそれを知る必要があるような気がした。
良い歳して何を悩んでいるんだか。
メールを返し、昼食を片付けて仕事に意識を切り替える。
そうでもしなければつまらないミスを犯してしまうくらいには、不安定な気持ちがあるように思えた。
それから同窓会予定日まで、ほとんどその事は考えずに過ごした。
早く過ぎて欲しかったし、彼が来るか来ないかでいつまでも悩んでたって仕方がないと思い、仕事に集中する。
合同企画の件で相手側と顔を合わせてもそれは同じ。
聞けば良いのに、聞いてやろうか、と佐東は言ったが俺は頷かなかった。
行かない、という答えを、俺は知りたくないと思っていたのだろうか。
燻りが、その時確かに色を見せていた事に気付かないままで。
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