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中編
緩慢→敏捷。
 

「諦めて帰れよ。今日用事あるとか朝言ってたし」
「……ちっ」



 ちょ、舌打ちとか。

 ていうか早く出てってよ。羽田引きずって行ってよ。

 そんな思いが溢れ、キスをしてるのを一瞬忘れて呆れた息を吐き出そうと小さく口を開いた途端、口の中に、温かく湿った柔らかいものが入り込んできた。



「……ふ、っ!?」



 ぬるりと口内に入り込んだソレが、舌を撫でる。
 なに!?と訴えるように宇佐見の目を見ると、その目はじっとこっちを見たまま変化はなくて、ただその舌が、俺を攻める。


 やばい。やばい。
 なんだ、これ。



 緩慢な動きで音を立てないように動く舌は、時々俺のを掬い上げては唇がそこを挟むように、小さく吸い付いてくる。

 そこに性急さはなく、確かめるように味わうように絡めとるせいで、腰がびりびりと疼き、生理的な涙が目に膜を作った。



 こんなの、知らない。
 いろんな人とキスをしたし、気持ちイイセックスだってしてきた。なのに、こんな、こんな痺れるようなふやけるようなキスを、俺は知らなかった。


 徐々に息が上がってきて、口の端から唾液が流れるのが分かると、宇佐見は舌でそれを舐め取っていく。



 やばい。キスだけなのに、こんな風になるなんて。



 普段は攻める側なのに俺は今攻められてる。好きで好きで仕方ない奴に、それも、ゆっくりと染み込むように。




「───そういや宇佐見、俺がここに来る途中職員室で見た気がする」
「……はぁ…、カメちゃん……」



 準備室の出入口の方から二人の声が聞こえてくる。
 それが余計に興奮材料になるくらい、俺の意識は中途半端な場所にあった。


 夢中になれないもどかしさ。
 びりびりと腰が刺激される舌使い。
 バレたくないと思う理性。


 頬に、滲んで溢れた涙が伝った。



 と、二人分の声と足音、戸が閉まる音がふたつ聞こえてきて、心から安心した。心から。
 その音を宇佐見も聞いていたと思うから、もう離れるのかな、と思ってちょっと残念な気持ちになってしまった、のに。



「んぅ…っ!」



 緩慢なキスが、突然音を立てるようなそれに変わった。


 ちゅ、と宇佐見が舌に吸い付く度に音が鳴り、更に腰が痺れて物凄く、疼いた。



 キスしてる。宇佐見と、俺が。



 再び認識した事実と、音を隠す必要が無くなった事で俺の頭の中は真っ白になった。


 絡む左手に力を入れ、ぐっと顔を動かして押し込むように、更に深く、今度は俺が宇佐見の口内に舌を突っ込んだ。


 一瞬目を見開いた宇佐見は、まるで笑うかのように目を細める。
 攻め側にまわろうと舌を突っ込んだ、はずなのに、しかし俺は何故か未だに攻められてる。なんで。



 舌を突っ込んで来たのを良いことに、宇佐見は俺の舌を吸い上げ、さっき指でされていたような、フェラの動きをしながら舌を絡めて攻めてきたのだ。

 いやいや、もう、なにこれ。



 力が入らない。
 ぞくぞくする。気持ちイイ。

 舌を甘噛みされ、唇を食われ、歯列をなぞられ、流れるような動きで、いつの間にかまた俺の口内は宇佐見によって荒らされた。



 

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