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中編
ウサギの意図を読む友人。
 

 電話を知らせ震え続ける携帯。
 たぶん、羽田。
 理科室の方から音は聞こえないけど、戸の開閉音もない。

 大森はまだそこに居て、もしかしたら宇佐見が戻るのを待っているんだろうか。
 ここから出たとしてもまた準備室に入って来たら、と考えるだけで眉が寄っていく。


 ……てか、出ればって言うけどね、宇佐見との距離が近すぎて動けないんだけどな。
 嬉しいやら恥ずかしいやら、落ち着かない鼓動の音が、宇佐見にも聞こえてるんじゃないかって思うと、ね。



 長く震えた携帯は止まり、それに気付いて緊張が安堵に変わってか細い息を吐く。


 ───と同時に、大きな音を立てて再び準備室の戸が開いた。



「っ、…っ!?」



 突然で、しかも口を薄く開いていたせいで声が出そうになって息を吸い込んだ瞬間、そのまま出るはずだった音が、飲み込まれた。



 宇佐見の口の中に、吐き出されそうになった声が、飲まれた。
 何が起きたのか分からなくなって咄嗟に宇佐見の右腕を掴む。両手は宇佐見の制服と腕を掴んでるのに、引き剥がせない。


 大森の独り言が聞こえる。でも言葉が入ってこない。ただの音に変わってすり抜けていくだけ。



 ───俺、今、宇佐見とキスしてる。



 大きく開いた視界の先に、まっすぐ射抜くようにこっちを見る宇佐見の目があって。

 頬から離れた右手が俺の左腕を伝って左手に触れ、するりと指が絡んでいく。
 器用なのかもうなんなのか、ずっと掴みっぱなしな宇佐見の左腕が持ち上がり、その手は俺の後頭部に、添えるように回ってきた。


 ただ触れているだけの唇は、時々俺のを挟むように動く。緩徐で啄むように動く度に自分の体がぴくりと動くのを自覚した。



 見つめあったまま、右手と左手が指を交差させて絡まり、恋人繋ぎみたいになって、ぎゅっと力が込められた。



 なに、してるんだろう、俺。



 不意にそんなことを思った時、再び準備室の戸が開く音に小さく体が跳ねた。
 大森が出ていくのかと少し安心したのも束の間。



「───宇佐見居ないのか」



 羽田の声が聞こえて、息を飲んだ。



「俺はカメちゃんを探してんだよ」
「誰もいねぇけど」
「裕弥はトイレって言ってたけど、まだ戻って来ないし。カメちゃん居ないし」
「あいつのカバンねぇから帰ったんだろ」
「は?───あ、マジだ」



 …え、カバンがない?


 羽田の言葉に、疑問が浮かび瞬きする。
 俺はいつもカバンを椅子の横に置いてるし、今日もそうだったはず。
 出入口側だからすぐ分かるし、それで居ると思ったから大森はここに居るんじゃないの?え、なんで?



 けれどその疑問は、すぐに解消された。


 とん、と後頭部にあった手が、注意を引くように一度、俺の首筋を叩いた。
 無意識にそらしていた目をまた前に戻すと、宇佐見の目と左手が俺の視線を促すように動く。
 その手を追うと、手は一度視界に入らない所まで下がっていって、またすぐに戻ってくる。

 見覚えのあるカバンの持ち手を掴んで。



「……!」



 まさかいつの間に持ってきたの、と問うような視線を向けたら、宇佐見は可笑しそうに目を細めた。




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あきゅろす。
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