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中編
かくれんぼ。
 


 思わず握り返してしまったけど、宇佐見はなにも言わずにどんどん準備室の奥に向かって早歩きになっていて。
 足がもつれかけ前のめりになりながらも必死に着いていく。


 怖くて、嬉しくて、苦しくて、なんかもう頭の中が大変なことになってる。



 宇佐見は出入り口から一番離れた部屋の奥まで来ると、様々な道具や机が詰まってる一角の更に隅にある、教室にあるやつより大きめの教卓を少しずらし始めた。
 その際に離れてしまった手に寂しさを感じながらも、行動の不可解さに首を傾げたら、なんと宇佐見はまた俺の手を掴み、その教卓の裏側に押し込んできた。



「え、ちょ…っ」



 驚きすぎて無意識に抵抗したのに、無言でぐいぐいと押してくる力が強くてとりあえず屈むと、なんと、なんと、宇佐見まで一緒に入って来るではないか!


 頭が荒れ狂って理解が追い付かない。もう真っ白。

 男子高校生二人は流石にキツい。
 教卓の裏側で膝を突き合わせるというより、互いの足の間に片足が突っ込んで、膝が交互に組まれる形になる。


 とりあえず、俺、死にそう。



「てかなんで宇佐ちゃんま…んむっ」
「しっ」



 思わず聞いてしまったが、言い終わる前に宇佐見の手が口を覆ってきて、もう何がなんだか分からないんですけど。
 しっ、て。しっ、て、可愛いんですけど…!


 俺はもうダメかもしれない。さっきまでのモヤモヤが、今の「しっ」でぶっ飛んだ。絶対顔赤いよ自信ある。



 若干悶えていた時、壁を隔てて引き戸が開かれる音に、理科室の戸だと分かると体が強ばった。
 次いですぐ準備室の戸も開かれ、ドキドキが最高速度を記録したと思う。心臓麻痺起こしそう。



「……いない」



 ぽつりと微かに聞こえた声は、大森のもので。
 バレたくない会いたくない一心で、無意識のうち、俺の口を覆っている方の宇佐見の腕を掴んだ。


 大森はあまり彷徨くことなく準備室から出たようで、戸の開閉が聞こえて少し安堵した瞬間。
 鈍いバイブレーションの音が、聞こえた。


 叫びそうになってひゅっと喉が鳴ったけど、口は宇佐見の手によって塞がれているおかげで声は出さずに済んだ。


 ゆっくりと手が外れ、振動を続ける携帯のバイブレーションの音がやけに大きく聞こえて、冷や汗がやばい。
 それは宇佐見の携帯からで、ポケットから出した宇佐見は一度考えるように目をそらすと、なんと、出た。
 いやいやなんで出るの!?


 え、と小さく漏れた声は空気になっただけで消え、俯く。バレたら、どうしよう。



「……なに」



 小さく低い声に、肩が揺れた。
 近距離のせいか、携帯からも理科室の方からも大森の「どこにいるんだ」という声が聞こえてきて、不安になって顔を上げたら。



「───…っ!」



 宇佐見とばっちり目があった。

 ちかい。ちかい。やばい。


 顔に集まる熱。やっと落ち着いてきたのに、また赤くなってるよ絶対。ちょっと暗いけど近すぎて気付かれてたりして…。


 でも、目がそらせない。
 淡々と話す宇佐見も、そらさない。

 じっと見つめあって、うるさい俺の心臓の鼓動が聞こえてるんじゃないかとも不安になってきたとき。



 宇佐見の右手が、ゆっくりと、俺の頬に触れた。



 

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