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中編
日常変動。
 

 文化祭が終わって、冬休みも目前である12月下旬。
 打ち上げ後のあれについては、休み明けの放課後、緊張しながら行った準備室で宇佐見に謝った。

 「びっくりしたけど気にしてない」といういつも通り無表情で抑揚ない返事に、俺は安心した反面ちょっと寂しかった。
 聞かれたら聞かれたで答えられないかもしれない理由のせいで、その寂しさも一瞬だったけど。
 あんまり興味ないんだなぁって思うだけ。



 それから数日、今日も俺は、気持ちを殺してここ(理科準備室)に居た。
 いつも通り、いつも通りにとほぼ一方的な話をしながら、綺麗な手元を見る。



 だけど、その日はそのまま終わらなかった。


 制服のスラックスに入れてた携帯から、突然電話を知らせるバイブレーションが起動した。
 びっくりして「うわっ」とか言っちゃったけど、慌てて立ち上がると宇佐見と目があって、どきりとする。



「ごめん、電話」



 そのまま目をそらす流れに乗って背を向け、準備室から出る。邪魔したくないし。

 取り出した携帯に目を落とせば、珍しいことに羽田からで、思わず舌打ち。



「なにっ」
『おーおー、キレんなって』



 むかつく。
 俺が放課後、準備室に居ることを唯一知ってるくせに。邪魔されたくない理由も、誰より分かってるくせに。
 わざとかこいつ。ありえる。



『お前、いつもん所にいるのか?』
「そうだけど、なにさ」



 自分でも分かりやすいくらい不貞腐れた声が出た。でもだってムカつく。



『いや、お前を探してる奴が居てさあ』
「は?…だれ」
『大森』



 その名を聞いた瞬間、今までのムカムカも消え失せ、ひゅっと空気が音をたてた。

 大森。
 宇佐見の友達。
 そして俺に迫ってきた、ヘンタイ。



『好きだ、亀山春彦。俺はずーっと、お前を見てたんだよ?

─── 知らなかったでしょ?』



 捕食者みたいな目。
 捕食の寸前に、食べ頃をずっと待ってたんだよ、と自分の存在を主張して、わざと掌の上で転がして、嘲笑うような。
 逃げられない事を悟らせて絶望する顔を見て満たされる為のような。


 ああ、もう、なんなの。



「ヤダ、ムリ、会いたくない」
『だろうな。足止めしといてやるから、今日はもう帰れ』
「……宇佐ちゃんと居たいのに」
『アホ。危機感持てよ。ヘンタイ相手なんだから』
「……」



 そうだけど。そうだけど。

 休日あけ、大森はアクションを起こしたのだ。
 今まで会わなかったのに、朝の下駄箱も昼のご飯中も、休み時間の廊下にも、大森の姿を見たし、けど奴は羽田に話し掛けて、流れで俺に話し掛けてくる感じだった。
 でも、羽田も俺も気付いた。
 その目が確かに俺を見ている事も、愉快そうに笑うことも、本気なんだと悟らせるには充分な態度の変化だったから。


 呼び出しや告白をしてくる事は今はないけど、俺は期待を持たせるような態度はとらなかったはずなのに。
 ちゃんと言わないとダメだと言われているように、大森は頻繁にクラスに来てる。


 そして今日は、探してる。
 嫌な予感しかしない。会ってまた言われるならその時ちゃんと断れるけど、なぜか 会いたくない気持ちがかなり強い。


 準備室に続く扉の横で、壁に寄りかかって座り込んで溜め息を吐いた。


 その時、背後の扉が開く音がして、咄嗟に左側を見上げると、そこには無表情の宇佐見が、こっちを見てた。


 

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あきゅろす。
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