中編
心中大錯乱。
「かーめちゃん!」
「うわっ!?」
変な空気だったのがほわほわして、なんだか幸せな気持ちになってたのに、前にいたはずの大森が突然肩を組んできた。
しかも亀ちゃんとか、お前に呼ばれたくないとか思うけど、なんでこんな嫌ってるんだろ。
しかし空気を読まない男、大森。
密着したまま離れてくれず、いつの間にか位置が変わってしまった。宇佐見は自然と羽田の隣に向かってしまったのだ。ショック。
んで、なんで離れていくんだろう、とも思った。
べつに居てもいいのに、むしろ居てほしかったのに。
「……なに?」
歩きづらいことこの上ないんだけど。
がっしりと、まるで逃がさないと言わんばかりの腕の重みが、俺からさっきまでの幸せを吸いとっていくみたいに思える。
「…そんなあからさまに嫌な顔すんなって」
至近距離から聞こえた、さっきまでの高めの声ではなく低いそれに、一瞬にして悪寒が駆け巡った。
なに、こいつ。
「ね、亀山は最近、理科準備室に裕弥と居るんだろ?」
「……だからなに」
裕弥。宇佐見の名。
モヤモヤと、また黒い気持ちが渦巻いてきて、とにかく嫌な気持ちで、肩に乗る腕を掴んで払う。
ありゃ、と大森は残念そうに笑って。
でも目が笑ってない。まるで、これは。
「俺ね、嫉妬してんだ」
「……は?」
突然の告白に、唖然とするしかなかった。
気づけば公園に入っていて、羽田と宇佐見はベンチに座って何やら会話しているようだ。
けど、そっちに行こうと足を踏み出したのに、大森によって止められた。
隠すことなく訝しい目を向けると、大森はまたへらりと笑う。
なに、こいつ。
またその目に、違和感。
「嫉妬してんの。一緒に居ることが、ムカムカする。なんであいつなんだって」
「……なにいってんの」
ワケわかんない。
嫉妬って、俺に?大森の言葉は俺に対する嫉妬を表しているようにしか聞こえない。
もしかしてこいつは、俺のように、宇佐見が。
ぎゅっと鳩尾が締め付けられる。
お前の方が一緒にいるくせに。
放課後しか会わない俺と違って、こうして一緒に帰るくらい仲が良いくせに。
ぐるぐる巡る嫉妬の波が、大森を睨むような目を作った。
すると大森は、本当に面白そうに、笑った。
「あいつに嫉妬してんだよ、俺」
「……は?」
大森が向けた視線の先には、宇佐見と羽田がいる。
なんなんだ。
「意味、わかんない」
思わず出た言葉。
大森は、ぐいっと顔を近付けてきて、咄嗟に一歩下がる。
笑ってない目。それはまるで、まるで、───捕食者のような。
ぞわり、と身体中に走る感覚。
大森の手が、いつの間にか、俺の頬に触れていた。
「俺はね、亀山春彦と一緒にいる裕弥に嫉妬した」
「っ、離して、くんない…?」
「ああ、可愛いなあ、お前」
「…っ!」
意味がわからなかった。
だけど反射的に頬に触れる手を、はたき落とした。
大森は、くつくつと笑う。
こいつ。
「好きだ、亀山春彦。俺はずーっと、お前を見てたんだよ?」
知らなかったでしょ?
そう言って笑う大森に、俺は酷く、酷く不快感に襲われた。
「し、るわけないじゃん!この変態!」
まさに錯乱。
考えが纏まらず、とにかく離れたいと思った俺は、迷わずベンチに掛けよって羽田の手を掴み、宇佐見に「ごめんまたね!」と矢継ぎ早に言い残して走り出した。
戸惑う羽田を無視して、ただひたすら走った。
あいつ、変態だ。
ただそれだけが、頭の中にあった。
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