中編
カメは内側の誘惑と闘う。
やばい頭真っ白。
振り返っても片腕を捕まれたまま、至近距離にいる宇佐見とばっちり見つめ合うこと数秒。
無表情と横に垂れてる耳がなぜか妙に合っていて、つまりあれ。
かわいいと、叫 び た い。
しか浮かばない俺の脳内は末期だ。
キラキラしてる。宇佐見の周りがキラキラしてる。恋の脳内フィルター絶好調。
「…寄らないのか?」
「……っ」
やめてその格好で首傾げないで俺のライフがゼロになるから本当にやめて可愛すぎて抱き締めたいんですけど!
そんな悶えを訴えるように羽田を見たら、なんか目を反らされた。ひどくない?
「…えと…」
再び宇佐見に向き直るが、俺は咄嗟に目を反らしてしまった。
欲 望 が 止 ま り ま せ ん。
そしてそんな乱心を知るはずもない宇佐見は、更なる攻撃(誘惑)を仕掛けてきた。
「…席、空いてるけど」
それは宇佐見の心の席ですか!
やばい俺テンションおかしいわ。
落ち着け。落ち着け亀山春彦。いつも通りに、いつも通りに…!!
「宇佐ちゃんと相席したいな!」
「ぶっ」
「え、」
きょとん顔かわいい。…じゃねぇえぇぇ!ばか!俺のばか!ぜんっぜん落ち着いてないじゃん!完全暴走じゃん!
つか吹き出すなや羽田め!
思わず頭を抱えたくなった。
とりあえず今のナシ。ナシにしたい。忘れてほしい。
「…なんちゃってー」
で、誤魔化す俺。なんて苦しい誤魔化しだ。
とりあえず忘れて貰おうと、おすすめを聞こうと口を開いたら、宇佐見は必殺技を繰り出した。
「……別に、いいけど」
「ぶっは!」
効果は抜群だ!
俺は叫んだ。心の中で。
羽田の吹き出しに突っ込む事も出来ずに、咄嗟に口を手で覆い隠し、顔を反らして、目を閉じて、悶えた。
地団駄したい。この溢れんばかりの悶えをなんとか流したい。
なにこの攻撃力。
兎着た宇佐見の攻撃力半端ないんだけど。
「……どうした?」
「なん、でも、ない…っ」
息が出来ません隊長!
俺の心はもう完全に奪われました!もう奪われる心がありません!
もう、俺、幸せ過ぎて今死んでも良い。でも生きて宇佐見とまったりしたい。
荒れ狂う心をなんとか静め、未だに片手(片腕から!手に!)を捕まれたまま、俺は羽田と共に教室内に通された。
隅っこの四人掛けで、俺の隣に宇佐見が座り、俺の向かいに羽田が座った。なにこの至近距離。たまらん。
いつもは向かい合ってるから、隣に居ると余計に距離が近く感じる。とりあえず幸せ。今俺の周りは花畑だと思う。アホなイメージのやつじゃなく。
「へえ、軽食と甘いものか。とりあえず俺はピザ。カメは?」
「同じでいいよー」
「じゃ、それで」
「わかった」
注文を受けて席を立った宇佐見は、そのまま接客に戻る…ことなく、なんと普通にまた隣に座ってくれた。当然のように。
これ重要。
当、然、の、ように。
にやけるやばい俺変態扱いされそう。
とりあえず羽田には変態扱いされるだろうけど、羽田は別に良いや。
とにかく、俺は、抱き締めたりすりすりしたい衝動と欲望に、ひたすら抗うしかなかった。
誘惑って、怖いね。
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