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中編
04
 


 ───海は肌寒かった。

 道の駅から少し走った所に海岸はあって、駐車場はガラガラ、夏は終わったから当然なんだけど山近くの海辺は風が冷えてて10月にしては冬を感じるくらい。
 つっても10月も終わりに近いけど。


「今日は特に気温低いからかね」
「ですかね」


 石垣の上に腰を下ろして眺める海は穏やかだった。日も短くなってきたからか、空に日中の眩しさはない。

 今日が楽しかったからだろうか。
 人に会って緊張とか調子狂ったりとか恥ずかしかったりとか、色々な感情が忙しなく働いていたからなのか、ここが静かな場所で海だからか、時間帯のせいなのか。
 まだ帰りたくないな、と思ってしまった自分に驚いた。

 早く帰ればその分長く幼馴染みと一緒に居られる。今までずっとそうだった。好きな人と少しでも長く居たいから、友達と遊んでいてもどれだけ楽しくても早く帰りたいと思っていた。
 想いを伝える触れ合いが出来るような恋人になんかなれないし、ただの友達同士のじゃれあい程度でしかなくて、それでも同じ空間に居られるだけで良かったのに。
 好きだから我慢して、耐えて、諦めたくても出来なくて、勝手に窒息しそうになっていたのに、今日は違った。


 片膝を抱えて波打つ海をぼんやり見ていたら肩に何かが掛かって我に返る。


「───…あ、」
「ちょっと肌寒いからさ」
「ありがとうございます、」
「電話してから考え事してる。なんかあった?」
「え、いや…、」


 顔に出てたのか、ぼんやりしていたのか自覚していなくて申し訳なくなる。なんかあったわけじゃないが、亮平さんは俺が幼馴染みに片想いしている事を知っているからあまり悩まなかった。


「なんか、幼馴染みの様子変だったんで。普段出掛けてる時に電話とかしてこないし」
「そうなの、心配なら帰るか?」
「いや…っそれは大丈夫です。どうせ家に居るんで、」
「みーさーき」
「はい、?」


 帰りたくない、とはっきりした意識があって咄嗟に首を振ったら名前を呼ばれて横を見上げる。頬をつつかれた。


「今日楽しい?」
「楽しいです。……今まで誰と遊んでても、楽しいけど帰ってアイツとゲームしたりだらけたりしてたいって思ったり、何かにつけてカメを思い出してたんですけど、」
「……うん」
「今日、電話来るまで忘れてた」
「……」


 帰りたくないって言ったら変に捉えられてしまうかもしれない。俺がゲイだから、幼馴染みに片想いしてるくせに他の人と一緒に居て帰りたくないとか、どこの遊び人だと自分でも思ってしまうし亮平さんにそう思われたくなくて黙ってしまう。
 暫くの沈黙があって、不意に頭を軽くぽん、とされた。見上げると亮平さんは目を細めて笑っている。


「良かった」
「……」
「俺も凄い楽しい。帰したくないくらい楽しい」
「〜〜っ、な、に言ってんですか、本当イケボ乱用してる。てかそういうのは───」
「ふは、顔真っ赤。……美咲、また会える?」
「え、あ…はい、そりゃあ、もちろん」
「ご近所さんだし、飯一緒に食べに行ったりしよ」
「俺で、良ければ…」


 この人にこんなん言われて断れるのは心底興味ないって思ってる人だけだろ。つか本当に恥ずかしくて顔熱いし上着温かいし近いし、いやあの、いつまで頭撫でてるんすかね。


 


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あきゅろす。
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