中編
02
リョウさんと会う日が今週末に迫っていた。夏休み前に話をした時は実感が無くてふわふわした状態だったが、いざ決まるとやっぱり落ち着かなくなるもので。
「なあ聞いてよ羽田ぁ、今日も裕弥に準備室来るなって言われてさあ…」
「んー」
「カメちゃん独り占めして嫌がらせかよって思うじゃん」
「んー」
「聞いたら喧しいから来るなって!酷くね?」
「んー」
「俺の話聞こえてます?」
「んー」
「お前はコクらないの?」
「ぶちのめすぞ」
「聞こえてんのかよ」
うるせえ、くそほど興味ねぇお前の愚痴なんかほぼ毎回同じ内容なんだから聞いたって時間の無駄なんだよ。
昼休みにカメが不在の間を見計らって、窓の向こう側から似たような事を喋りに来る大森は相変わらず不審者だ。
しかも何故だかいつの間にか俺がカメに片想いをしていると知っていた。
好きな奴が同じだと直感で分かるらしいが、お前に関しては割りとあからさまだから誰でも分かる。悲しいかな気付いていないのは想われている本人だけだ。
恋愛童貞は向けられる好意に鈍感らしい。……いや、同性だからか。
週末の予定でざわついていたものの、大森の安定した不審者具合に若干頭の中が別の考えを生んだ。かなり不本意だ。
別の考えも結局いつもの不毛な気分を思い出させるものだったから、これは寧ろ来週の件で頭を埋めていた方が良かったのでは、とすら思った。
「あ、戻って来た。…かわいいなー亀山」
「…さっさと行かねーとバレるぞ」
「はっ、見惚れてた。じゃーな」
「盛大に転べ」
何が楽しくてやってるんだか、と思いながらも敢えてカメと擦れ違う方向に歩いて行った変態を、窓の縁に肘を立てて見送った。
「ただいまー」
「おかえり」
のんびりした足取りで戻って来たカメは、自分の席に座ると体を伸ばしながら欠伸をした。
「どこだった」
「裏門。丁重にお断りしましたー…疲れたー」
相変わらずモテる幼馴染みはさっきまで裏門にいたらしい。告白される場所は様々あるが、今のところ公開告白する勇者はいない。
『告白しても断られる』という噂が一応あるにはあるのに絶えないのは、彼女らにとって噂と気持ちの比率が合っていないから自分は大丈夫だと思うのかもしれない。
一年からも三年からも告白されている幼馴染みのモテ期は果たして終わりがあるのか、とちょっとだけ疑問した。
そして最近はその噂に変化がある事も知っていた。どうやらカメは「気になっている人が居る」と言って断っている、らしい。
聞いた時から嫌な予感はしている。でもそれを確信にするには本人からの情報が足りない上に、わざわざ聞くことでもないと思っている自分がいた。
「彼女作んねーの、お前?」
「んー…興味なくて。嬉しいけど付き合いたいとは思えないからさー」
「ふーん」
気になる奴とかいないのか、とは言えなかった。興味がない、という言葉はその質問の答えにも成り得るからだ。
此処んとこ飽きることなくカメは放課後の理科準備室に通っている。授業が終わると真っ先に教室を出て、その時の楽しそうな表情は日に日に色を濃くしているように思えた。
嫌な予感がまとわりついている。
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