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中編
07
 


 とは言え、性癖なんてそうそう知ることは出来ないし同性愛なんて更に難しい。学校でも職場でもそういった同属みたいな雰囲気の人はいない。
 あー…そういや大森は明けっぴろにカメ好きを俺に示してたな。でもアイツは論外だ。そもそも俺が無理だ。しかもアイツ女子と付き合ったりしてるし別にゲイってわけじゃないな。


「同じ系統の人と出会うってやっぱ、そういう人が集まる所行くしかないんですかね」
『まあ…すぐにでもっていうならそうかもしれないけど、危なくね?』
「恐いっちゃ恐いです」
『高校生だしなあ…、ああでも、俺はハイネくんと直接出会える日を楽しみにしてるけど?』


 唐突にぶっ込まれた言葉と声に一瞬ヘッドフォンを外しかけた。デスクの手前に額をぶつけると、焦ったような楽しそうな声で『凄い音したけど』とリョウさんは言う。


「っ、イケボ禁止」
『ときめいた?』
「俺で遊ばないでくださいよ…ちょっとときめいたけど」
『えー、ちょっとだけ?』
「……ちょっとじゃないっすあーもー…」
『かわいい』
「もうマジホントやめてくださいヘッドフォン外したくなる」
『あはははっ、でもわざとじゃないし本心だから』
「耳が死ぬ……」
『珍しく落ち着かないねえ』


 誰のせいだよ本当に良い声を乱用すんのはやめてほしい。でも好きだから喋っててほしいとは思ってしまう自分が面倒くさい。
 妙な顔の火照りに手で扇ぎながら、背凭れに寄り掛かって溜め息を吐いた。


「……なんか、さっきまであったモヤモヤが無くなりました」
『眠れそ?』
「はい。ありがとうございます」
『お礼なんていいよ、俺もハイネくんと話したかったから良かった』
「……もー…なんなんすか俺を落としにかかってます?」


 あまりの優しさだとか発言だとか勘違いされやすいそれらに、冗談で笑いながら問うてしまった。


『あ、気付いた?』
「またそうやって…」
『ほらほら、さっき言ったじゃん。ハイネくんが気付けば変わるって話』
「いやしましたけど…」


 この人はまた俺で遊んで、と笑い話のように軽く返すと、しかしリョウさんは声色を変えた。


『会ってくれなくなるかなって思って言わなかったけど、俺は結構本気で落としにいってるから』
「え?」
『気になる人が居るんだーって話したじゃん』
「え、はい、ん?」
『それハイネくんだから』
「───…はい?」


 とんでもなく良い声で言われているのに、言葉の内容が衝撃的過ぎて頭がついていかない。


『ま、そういう事だから、そろそろ寝るよー』
「あ…あぁ、はい、おやすみなさい…」
『おやすみ、楽しかった。またね』
「俺も…楽しかった、です、また、」


 ぷつ、と切れたボイチャにヘッドフォンからは何も聞こえてこない。ぼんやりした頭でそれを外し、ゲームをログアウトしてパソコンを閉じた。

 俺さっき何て言われたんだっけ、とふわふわした足取りでベッドに転がる幼馴染みの近くに座り込んで寝顔を眺めた。
 体の横にある手に触れてみる。体温が高いカメの手は温かく、細目の指を撫でた。カメは起きる気配も寝返りすらなく、穏やかな寝息をたてている。
 俺はリョウさんと話す前より眠れなくなった。


 


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あきゅろす。
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