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中編
08
 


 ───重い瞼を開けると、オフホワイトの背中と茶髪が視界に入った。
 寝る前は何時だったか、2時は過ぎていたように思う。枕の横に置いていた携帯をひっくり返して点けて表示された時間は12時を少し過ぎていた。


「……ん゙ー…」
「あ、起きた」


 体を伸ばしながら出た声に振り返った客人は幼馴染みのカメで、暇潰しに読んでいたのだろう漫画を閉じてベッドの端に片腕を乗せる。
 最近切っていない長くなっていた前髪を上げていて、見えた額に指を弾き当てた。


「いたい!」
「うっせー…何時に来たの」
「30分前くらい? おばさん達は出掛けたよー」


 額を撫でながら言ったカメに、重い体を起こしながら気だるい返事をする。
 そういや昨日何か言ってたな。
 好きなアーティストが同じである両親が子供みたいに「ライブチケット当たったから行ってくる!」とか何とか。
 帰りは夜中だな。


「ご飯作ってあるってー」
「あー…」


 夜更かししてたな、と笑うカメを横目に欠伸が出た。


「……ねみぃ」
「そうでしょうとも。はい起きて起きてー」
「引っ張んなバカ」


 ぐいぐいと腕を引かれて、ベッドヘットにある眼鏡を掛け仕方なく立ち上がると、漫画を棚に戻して楽しそうにリビングへと行くその背中を眺めた。

 ここんとこ前よりどこか楽しそうだ。新しい遊びでも見つけたのか、良いことでもあったのか。
 わざわざ聞くことでもないし、自分にとって嫌な答えが出てくるのも恐いし、まあ良いかと髪を撫で付けながら後を追うように部屋から出た。


 顔を洗ってリビングに入ると、勝手知ったる家だからカメは冷蔵庫から小鍋を出してコンロに乗せていた。


「何入ってんの」
「今日はカレーだよ、みーくん!」
「やめろキモイ」
「ひどい!」


 冷蔵庫から水出し麦茶のポットを取り出しながら聞くと、カメは腰をくねらせウィンクして裏声で言った。
 言い方はマジでキモかったが、正直その言葉に少しだけ浮かれた気持ちが発生した自分の方が気持ち悪かった。
 小さい頃の呼び方を久しぶりに聞いた気がして、いつから変わったんだっけ、と麦茶を飲み下しながら過去を振り返る。
 中学入る前か、自分の名をからかわれ続けてきた腹立たしさから嫌になって名前で呼ぶなとか言ったんだ。
 親は好きだけど何故自分にその名前を付けたのか未だに納得できない。


「お前も卵スープ飲む?」
「のむー」


 キッチン下の棚からインスタントの小袋を二つ取り出し、スープ用のカップに入れた。
 カレーの匂いが漂って、暖めておいた小分けの白米を皿に移す。


「中間テストやだなー」
「追加の勉強が嫌ならちゃんと授業受けろ」
「いや俺には羽田が居るから」
「俺はお前の家庭教師じゃねーよ」
「ええー…センセーより解りやすいのに」
「授業料払え」
「体で?」
「いらねえよ」
「ですよねー」


 このクソ野郎マジで体で払わせてやろうか、と能天気な鈍感バカに心底そう思ったが押し殺して溜め息を吐いた。
 結局はテスト勉強の期間中は毎度俺の好きな紙パック紅茶を献上する、といういつもの決着で終わった。


 

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